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        3年生の日本昔話(にほんむかしばなし) 
          
          
         
八人の真ん中(まんなか) 
      
      
       むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。 
   ある日、お城(しろ)から彦一(ひこいち)のところへ、こんな知らせが届(とど)きました。 
  《若(わか)さまの誕生(たんじょう)祝(いわ)いをするから、お城(しろ)へ参(まい)れ、庄屋(しょうや)とほかに、村の者(もの)を六人、あわせて八人。きっかり八人で来るように》 
  「お城(しろ)から、およびがかかるとは、ありがたいこっちゃ」 
   庄屋(しょうや)さんは、誰(だれ)とだれを連(つ)れていこうか、六人をえらびだすのに苦労(くろう)しています。  
   しかし彦一(ひこいち)は、その手紙を見ながら考えました。  
  「この、八人きっかりと、念(ねん)を押(お)しているところがあやしいな。あの殿(との)さまのことだ、また、なにかたくらんでいるにちがいないぞ」 
   さて、今日はお城(しろ)にいく日です。  
   いわれた通り、彦一(ひこいち)と庄屋(しょうや)さん、それに選(えら)ばれた六人の村人の、きっかり八人がそろいました。  
   庄屋(しょうや)さんと彦一(ひこいち)以外(いがい)の六人の村人たちは、生れてはじめてお城(しろ)の中に入るので、少しきんちょうしています。  
  「おら、ごちそうの食べ方が、わからねえだ」 
  「おらもだ。どうするべ」 
   すると、彦一(ひこいち)が、  
  「なあに、庄屋(しょうや)さんのまねをすりゃ、いいだよ」 
   その言葉(ことば)に安心(あんしん)した六人は、  
  「それもそうだな。わはははははっ」 
   そうこう言っているあいだに、八人はお城(しろ)に着(つ)きました。  
   大広間では、すでに若(わか)さまのお誕生日(たんじょうび)を祝(いわ)う会が始(はじ)まっています。  
   正面(しょうめん)の高いところに、殿(との)さま、奥(おく)さま、若(わか)さま、そしてまわりに大勢(おおぜい)の家来達(けらいたち)や、お付(つ)きの人達(ひとたち)がいます。  
  「若(わか)さまのお誕生日(たんじょうび)、おめでとうございます」 
  と、庄屋(しょうや)さんがあいさつをしました。 
   八人とも大広間のすみで、小さくなっていました。  
  「おう、彦一(ひこいち)め、参(まい)ったか。うむ、きっかり八人できたな、わははは」 
   殿(との)さまの笑い声(わらいごえ)からすると、やはり、なにかをたくらんでいる様子(ようす)です。  
  「こっちへ参(まい)れ。くるしゅうないぞ。若(わか)もその方が喜(よろこ)ぶ。さあ、遠慮(えんりょ)するな」 
   いわれて、彦一(ひこいち)たちは、殿(との)さまの席(せき)の近くまで、ゾロゾロとすすみました。  
  「さて、一つ注文(ちゅうもん)をいたす。彦一(ひこいち)は、ならんだ八人のちょうどまん中にすわるようにいたせ。よいな」 
   そういうと、殿(との)さまは若(わか)さまを見ながら、ニヤニヤと笑(わら)いました。  
   やはり、殿(との)さまたちの、はかりごとだったのです。  
   急(きゅう)な注文(ちゅうもん)なので、彦一(ひこいち)がボンヤリしていると、こんどは若(わか)さまの声がとんできました。  
  「彦一(ひこいち)、これができなければ、このままお帰り!」 
   家来やお付(つ)きたちは、みんな飲み食(のみく)いをやめて、ジッと彦一(ひこいち)を見つめています。  
   人数が、五人とか、七人とか、九人だったら、右左どちらからかぞえても、ちょうどまん中になる席(せき)ができます。  
   けれども、八人ではそうはいきません。  
  「あの小僧(こぞう)。知恵者(ちえしゃ)だと評判(ひょうばん)だが、どうするつもりだろう?」 
  「しかし、殿(との)さまもお人が悪(わる)い。八人では、どう考えても、まん中にはすわれんではないか」 
   けらいたちは、声をひそめて話していましたが、やがて大広間は、水を打(う)ったようにシーンとなりました。  
  「おい、彦一(ひこいち)。こりゃむりだ。あやまって帰るべえ」 
   ひや汗(あせ)をながしながら、庄屋(しょうや)さんは彦一(ひこいち)のそでを引きました。  
   その時、彦一(ひこいち)に名案(めいあん)がうかびました。  
  「殿(との)さま、私(わたし)がまん中になれば、どんなすわり方をしてもいいのですか?」 
  「ああ、いいとも。ただし、上にかさなるのはだめじゃ」 
  「承知(しょうち)しました」 
   彦一(ひこいち)は、ニッコリ笑(わら)うと、  
  「みんな、私(わたし)をかこんで、まるくなっておくれ。これなら、どこから見ても、私(わたし)はちょうどまん中だ」 
   みんなはいわれたとおり、彦一(ひこいち)を中心(ちゅうしん)にして、まるく車座(くるまざ→輪(わ)になってすわること)にすわりました。  
   これなら、七人でも八人でも、ちゃんとまん中ができます。  
  「うむ、あっぱれだ! 彦一(ひこいち)よ。今度(こんど)もそちの勝(か)ちじゃ」 
   殿(との)さまの言葉(ことば)に、家来も庄屋(しょうや)さんたちも、どっと声をあげました。  
  「これ、はやくお膳(ぜん)を用意(ようい)をせい。それから、ほうびもじゃ」 
   庄屋(しょうや)さんたちは、彦一(ひこいち)のとんちのおかげで、たっぷりとごちそうになり、上機嫌(じょうきげん)で帰って行きました。  
      おしまい 
        
       
         
         
        
      
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