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3月28日の日本の昔話
  
  
  
  大工と鬼六
 むかしむかし、あるところに、大きくて流れの速い川がありました。
   川のこちら側に住んでいる人は、向こう岸へいくのに橋を渡らなければなりません。
   でも、その川には橋がありませんでした。
   何回も何回も橋をこしらえようとしたのですが、途中までできあがると雨がふります。
   雨がふると、川の流れが激しくなって、橋は流されてしまうのです。
  「なんとかして、雨にも風にも大水にも負けない、じょうぶな橋をかけなければ」
   人びとは、そう話しあって、日本一りっぱな橋をこしらえるという、大工さんに頼むことにしました。
  「よし、ひき受けた!」
   大工さんはそういって、さっそく川岸へやってきました。
   ところが、その川ときたら、まるでどとうのように流れています。
  「こんなものすごい川を見たのははじめてだ。どうしたら、じょうぶな橋をかけることができるのだろう?」
   大工さんは考えこんでしまいました。
   すると、川のまん中から、大きな大きな鬼が、ヌーッと出てきました。
  「はなしは聞いた。おれは力自慢の鬼だ。ひとつ橋をかけてやろうじゃないか」
   鬼は、大声で言いました。
  「それはありがたい。ぜひ橋をこしらえてくれ」
  「よし、約束しよう。そのかわり橋ができたら、おまえの目玉をもらうよ」
   鬼はそういうと、パッと消えてしまいました。
   つぎの日、大きくてりっぱな橋が、もうできていました。
   人びとは、大喜びです。
   けれど、大工さんは困ってしまいました。
   橋の代わりに、目玉を取られてしまうのです。
   大工さんは、こっそりと山奥へ逃げていきました。
   すると、山奥のもっと遠くから、ふしぎな声が聞こえてきました。
  ♪大きな鬼の鬼六さん。
  ♪人間の目玉おみやげに。
  ♪早く帰ってきておくれ。
  「あれは、鬼の子どもが歌っているんだ」
   声を聞いた大工さんは、あわてて逃げ出しました。
   ところが、川のところまでくると、鬼が待っていたのです。
  「約束どおり、目玉をもらうぞ」
  「どうか、かんべんしてくれ。目玉をあげたら、とっても困るんだ」
   大工さんがいっしょうけんめい頼むと、鬼は、
  「かんべんしてもらいたかったら、おれの名前を三べんいってみろ」
   鬼の名前なんて、大工さんは知りません。
   そこでときとうに、
  「鬼太郎」
  「ちがう!」
  「鬼一郎、鬼次郎、鬼三郎、鬼四朗、鬼五郎・・・」
  「ちがう、ちがう。ちがうぞ!」
   そのとき、大工さんはふしぎな歌声を思い出しました。
  「そうだ、鬼六だ。鬼六、鬼六、鬼六!」
   大工さんは、大声で叫びました。
  「なんで、知っているんだー!」
   鬼の鬼六は、逃げるようにいなくなってしまいました。
おしまい