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        6年生の日本昔話 
          
          
         
ネコの恩返し 
      
       
      
       むかしむかし、ひどい貧乏寺(びんぼうてら)に、和尚(おしょう)さんが一人ですんでいました。 
   一匹(1ぴき)の三毛ネコを、自分の子どものようにかわいがっていましたが、そのネコもすっかり年をとりました。 
   ある日、和尚(おしょう)さんが村人の法事(ほうじ)に出かけ、夜おそく寺にもどってきたら、寺の中でなにやらさわがしい音がします。  
  (どうしたんだろう?) 
   和尚(おしょう)さんがふしぎに思って、こっそり中をのぞくと、でっかくなった三毛ネコが和尚(おしょう)さんの衣(ころも)を着て、袈裟(けさ)までかけて、楽しそうにおどっているではありませんか。  
   しかも、三毛ネコのまわりには、たくさんのネコが集まって、首をふったり、足でひょうしをとったりしています。  
  (こりゃ、おどろいた!) 
   和尚(おしょう)さんは、しばらく見ていましたが、  
  (ネコを長い間かっていると、化けネコになるというが、うちの三毛ネコも、とうとう化けだしたか) 
  と、こわくなってきました。 
   そこで、せきばらいを一つしてから戸を開けました。  
  「三毛や、今、もどったよ」 
   そのとたん、ネコたちはビックリして外へとびだし、三毛ネコも、あわててもとのネコにもどると、和尚(おしょう)さんのそばへかけよってきて、あまえるように、  
  「ニャーオ」 
  と、鳴きました。 
   和尚(おしょう)さんはそれでも知らん顔で、さっさと奥(おく)の部屋に行き、ピシャリとふすまをしめます。  
   いつもとちがう和尚(おしょう)さんの態度にガッカリして、三毛ネコはしばらく鳴いていましたが、やがて静かになりました。  
   さて、夜もふけたころ、ふとんのえりをひっぱりながら、  
  「和尚(おしょう)さん、和尚(おしょう)さん」 
  と、呼(よ)ぶ者があります。 
   ハッとしてとび起きると、まくらもとに三毛ネコが座(すわ)っています。  
  「今、わしを呼(よ)んだのは、おまえか?」 
  「はい、わたしです」 
   ネコが口をきいたので、和尚(おしょう)さんはおどろいて立ちあがると、三毛ネコが言いました。  
  「長い間、かわいがってもらいましたが、わたしも、とうとう化けるような年になりました。化けるところを和尚(おしょう)さんに見つかってしまっては、もうここにいることはできません。朝になればおいとまします」 
   いくら化けるようになっても、自分の子どものようにかわいがってきたネコです。  
   和尚(おしょう)さんは、三毛ネコと別れるのがつらくなり、  
  「よかったら、いつまでもここにいておくれ」 
  「ありがとうございます。でも、いつかは別れなくてはなりません」 
   三毛ネコは、ていねいに頭をさげると、部屋を出ていきました。  
   和尚(おしょう)さんは、もう一度横になりましたが、三毛ネコのことを思うと、眠(ねむ)ることができません。  
  (そういえば、おかしなことがあった。衣のおいてある場所が変わったり、袈裟(けさ)がまるまっていたり。それもこれも、三毛ネコのせいであったか) 
   和尚(おしょう)さんは、夜が明けるのを待って起きだし、白いご飯をかまいっぱいたいて、ご飯の上にかつおぶしをたっぷりかけてやりました。  
  「今日で、わしのつくった飯を食うのも最後だ。しっかり食べていってくれ」 
   三毛ネコはご飯を食べおわると、ジッと、和尚(おしょう)さんの顔を見つめていましたが、いきなり外へとび出し、門のところでもう一度ふりむき、「ニャアー」と鳴きました。  
   三毛ネコがいなくなると、寺の中は急に静かです。  
   和尚(おしょう)さんはさみしくて、なにをする気にもなれません。  
   ただボンヤリと、日を過ごすようになりました。  
   それから十日ばかりたったころ、村の長者(ちょうじゃ)の家でおじいさんがなくなり、葬式(そうしき)をだすことになりました。 
   ところが、いざ葬式(そうしき)を始めようとすると大雨が降(ふ)ってきて、しかたなく日を変え、べつの寺の和尚(おしょう)さんをよんできて、葬式(そうしき)を始めようとすると、またまた嵐(あらし)になるやら、雷(かみなり)が鳴るやら、どうにも野辺(のべ→火葬場(かそうば)や埋葬場(まいそうじょう))の送りができません。  
   そこでまた、日を変えることになったのですが、仏さま(→この場合、死んだ長者)を五日も六日も置いておくわけにはいかず、長者や親戚(しんせき)の人たちもあせるばかりです。  
   明日こそと思っていたら、ひにくなことに、その日の夜から雨になりました。  
   さてその晩(ばん)、和尚(おしょう)さんがいろりのそばにションボリ座(すわ)っていると、三毛ネコがやってきました。  
  「おう、よくもどってきた」 
   和尚(おしょう)さんがよろこんんで、だきあげようとしたら、三毛ネコが言いました。  
  「しばらくでした。わたしが今夜、顔を出したのは、長い間かわいがってもらったおれいをしたいからです。この間、長者の家のおじいさんがなくなったのは、和尚(おしょう)さんもごぞんじでしょう。ところが、いまだに葬式(そうしき)が出せなくてこまっています。そこで、和尚(おしょう)さんが出かけていって、『わしに葬式(そうしき)をさせてくれ』と言ってください。必ず葬式(そうしき)を出せるようにしますから」 
  「でも、わしみたいな貧乏寺(びんぼうてら)の和尚(おしょう)が行ってもな」 
  「大丈夫(だいじょうぶ)。わたしにまかせてください」 
   言ったかと思うと、三毛ネコはさっさと寺を出ていきました。  
   朝になっても雨はやまず、ますます大ぶりです。  
   和尚(おしょう)さんは、どうしようかとまよいましたが、かわいがっていた三毛ネコの言うことだと考えなおして、衣をつけ、袈裟(けさ)をかけて、長者の屋敷(やしき)に出かけました。  
   長者の屋敷(やしき)では、今日も葬式(そうしき)が出せずに困(こま)っています。  
   和尚(おしょう)さんは胸(むね)をはって、  
  「わしに葬式(そうしき)をさせてくれ。必ず天気にしてみせるから」 
   長者や親戚(しんせき)の人たちは、りっぱな坊(ぼう)さんが来ても葬式(そうしき)を出せないのに、こんな貧乏寺(びんぼうてら)の和尚(おしょう)さんになにができるかと思いましたが、とにかく早く葬式(そうしき)をすませたくて、  
  「まあ、そんならやってみてくれ」 
  と、言いました。 
  「それじゃ、始めるから」 
   和尚(おしょう)さんは、お棺(かん)の前に座(すわ)って、ゆっくりお経を読みはじめました。  
   すると、どうでしょう。  
   雨が小ぶりになってきたかと思うと、たちまち太陽が顔をのぞかせてきました。  
   長者は喜んで、すぐに村人たちに知らせます。  
   大勢の人たちがやってきて、待ちに待った葬式(そうしき)が始まり、無事に野辺(のべ)の送りがすみました。  
   長者はえらく喜んで、和尚(おしょう)さんにたっぷりお礼をはずみました。  
   そればかりか、和尚(おしょう)さんの評判が遠くまで伝わり、大きな葬式(そうしき)には、必ず和尚(おしょう)さんをよぶようになったのです。  
   おかげで、いまにもつぶれそうだった貧乏寺(びんぼうでら)は、りっぱな寺へたてなおし、弟子や小僧(こぞう)もふえて、和尚(おしょう)さんは一生しあわせにくらしたということです。  
      おしまい         
         
        
       
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