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        4年生の日本昔話 
          
          
         
クジラと海のいかり 
       むかしむかし、クジラとりの村で、長いこと不漁(ふりょう)がつづき、村のみんなは困(こま)っていました。 
   そのころは、お百姓(ひゃくしょう)が米をねんぐとして代官所(だいかんしょ→江戸時代(えどじだい)、地方をおさめた役所)などへおさめたように、そこの漁師(りょうし)たちも、クジラの肉を殿(との)さまへおさめていたのです。 
   クジラがやってこなくては、ねんぐをおさめたくてもおさめられません。  
   ほんとうにこまっていると、ある夜、親方がふしぎなゆめを見ました。  
   紋付(もんつ)きの着物をきた、クジラの親がきて、  
  「わたしらは、あす、熊野まいり(くまのまいり→和歌山県熊野三社(わかやまけんくまのさんしゃ)へのおまいり)に、子クジラをつれて、この沖(おき)を通ります。どうか、こんどばかりはお見のがしください」 
  と、熱心(ねっしん)にたのむのです。 
   親方は、熊野(くまの)まいりだというので、  
  「よろしい。あすは船をださん」 
  と、かたくやくそくしました。 
   つぎの朝早く、山の見はりに、あいずの、のろしがあがりました。  
  「クジラがきたぞ!」 
  と、漁師(りょうし)たちは小おどりして、浜(はま)へいそぎました。 
   親方はおどろいて、 
  「船を出すな!」 
  と、とめましたが、みんなききません。  
   ゆうべのふしぎなゆめの話をすると、漁師(りょうし)たちはわらって、つぎつぎに船をこぎだしました。  
   しおをふきあげ、沖(おき)にすがたをあらわしたのは、子づれのセミクジラでした。  
   このセミクジラが、いちばんお肉がおいしく、お金ももうかりました。  
   親方とのやくそくを信(しん)じきっていたのか、船が近づいてきても、セミクジラの親子は、ゆうゆうと泳いでいきます。  
   やがて、漁師(りょうし)たちの船は、親子クジラをとりまき、親クジラの頭にアミをかけました。  
   ハザシとよばれる漁師(りょうし)が、船をこぎよせ、一番モリを親クジラにうちこみました。  
   そのとたん、おこった親クジラは、おそろしいいきおいで、漁師(りょうし)たちの船におそいかかりました。  
   ふかくもぐったかとおもうと、たちまち山のような巨体(きょたい)をあらわして、漁師(りょうし)の船を空へもちあげ、また、つよい大きな尾(お)で、べつの船をこっぱみじんにたたきわりました。  
   しかも、空がにわかにくもり、すみをながしたように、まっくらになったのです。  
  「シケがきたぞ。つなを切れ」 
   漁師(りょうし)たちが気づいたときは、おそすぎました。  
   突風(とっぷう)がふきだし、海はあわだって、二、三十そうもの船は、かたっぱしから波にのまれていきました。  
   ぶじに浜(はま)へもどることができた漁師(りょうし)は、ひとりもいなかったそうです。  
   そして、このことがあってから、  
  「セミ(セミクジラ)の子づれは、ゆめにもみるな」 
  と、どこの浜(はま)でもいわれるようになったのでした。 
      おしまい         
         
        
       
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