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        6年生の日本昔話 
          
          
         
牛池 
      
       むかしむかし、とある山の中に、美しい水をたたえた、深い池がありました。 
   その池から、さほど遠くないところに、小さな山里がありました。 
   その山里のある家に、よくの深いおばあさんと、気立てのやさしい娘(むすめ)とが住んでおりました。  
   その家のまどから娘(むすめ)が顔をのぞかせると、外はふりつづく白い雪です。  
  「ああ、烏(とり)やウシに生まれたほうが、どれほどよかったかしれねえな・・・」 
   娘(むすめ)は、まどの外をながめながら、そう思うのでした。  
  「こらっ、また機(はた)をはなれとるな。このなまけもんが!」 
   おばあさんが、おそろしい声をはり上げます。  
   娘(むすめ)は、くる日もくる日も、機をおらされているのでした。  
   娘(むすめ)のおる反物(たんもの)は、たいそう高く売れました。  
   ですから、よくの深いおばあさんは、娘(むすめ)を一日として休ませなかったのです。  
  「よその娘(むすめ)は、一冬に四反もおりあげるちゅうのに、このグズ娘(むすめ)がっ!」 
   おばあさんが部屋を出ていくと、娘(むすめ)はそっと、なみだを流しました。  
  「おらに、四反もおれるわけねえ。でも、少しでもおらないと、おまんまが食べられねえ」 
   娘(むすめ)はさむさにふるえながら、機おりをはじめました。  
  ♪おら機おる だれが着る 
  ♪べべ着て おしろいぬって 
  ♪うれしかろ うれしかろ 
  ♪どこのだれやら 顔見てえな 
   悲しく歌いながら、機をおる娘(むすめ)のとなりの部屋では、おばあさんが、反物を売って何を買おうかと考えていました。  
  ♪一度 機屋たずねてこ たずねてこ 
  ♪ひやめし食わしょ たこ食わしょ 
  ♪手のたこ食わしょ みそつけて 
   こうしているうちにも、春がきました。  
   家から出してもらえない娘(むすめ)も、春はやはりうれしいものです。  
   ある日のこと。  
   まどべに一わの白い小鳥が、まいこんできました。  
   まどにとまる小烏に、娘(むすめ)は思わず見とれて、機をおる手足の調子をみだし、機のたて糸をバッサリ切ってしまいました。  
   切れた糸を見たおばあさんは、くるったようにさけびました。  
  「なおせ! なおせ! なおらんうちは、めしを食わさんからな!」 
   おばあさんがねてしまった夜中、娘(むすめ)は、フラフラと外へさまよい出ました。  
   なにもかもねしずまって、物音ひとつしない春の夜。  
  「こんなに、こんなに、外はきれいなのに。おらは、いつも家の中。・・・どこかへ行きたい」 
   娘(むすめ)はせつなくなって、そのままなきくずれてしまいました。  
   ふと、なにかがそばにきた気配に、娘(むすめ)が顔をあげると、目の前にウシがいます。  
   おばあさんのかっているウシが、娘(むすめ)のなみだにぬれた目をジッとみつめました。  
   ウシは、娘(むすめ)をせなかにのせ、月の光の中を、ゆっくりゆっくりと歩きだし、そのままどこかへ行ってしまいました。  
   それから、長い長い年月がながれ、いつのまにか、山の池には牛池という名がついていました。  
   そしてふしぎなことに、月の明るいばんには、牛池のあたりから、トンカラリ、トンカラリと、機をおる音が聞こえてくるということです。  
      おしまい         
         
         
        
       
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