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        4年生の日本昔話 
          
          
         
テンをたいじしたネコ 
       むかしむかし、あるところに、長者(ちょうじゃ)が住んでいました。 
   長者には、とてもきれいな一人娘(ひとりむすめ)がいて、目の中に入れても痛(いた)くないほどのかわいがりようです。 
   ところが、その一人娘(ひとりむすめ)が、原因不明(げんいんふめい)の病気になったのです。  
   真夜中ごろになると、突然(とつぜん)息苦しそうにうなりだし、それが朝まで続(つづ)くのです。  
   さっそく医者をよんでみてもらいましたが、べつに悪いところはなく、どうしてそんなことになるのか、原因(げんいん)がわからないといいます。  
   そこで祈疇師(きとうし→おはらいをする人)にもおはらいをさせてみましたが、やっぱりききめがありません。  
   長者や奥方(おくがた→おくさん)は、苦しむ娘(むすめ)を見るのがつらくて、ご飯(はん)ものどを通りません。  
   なんとかしてあげたいと、日夜、神仏(しんぶつ)に手をあわせましたが、娘(むすめ)の病気は日に日に悪くなり、とうとう寝(ね)たきりになってしまいました。  
  (このまま娘(むすめ)が、死んでしまうのでは) 
   そう思うと、両親は気もくるわんばかりです。  
   さて、この長者の家に、一匹(1ぴき)の大きなおすネコがいました。  
   かつて殿(との)さまのかわいがっていたネコの孫(まご)というだけあって、見るからに気品のあるネコで、長者はもとより、屋敷(やしき)の者もそまつにあつかうことがありません。  
   そのネコが、どういうわけか、娘(むすめ)のそばをはなれず、ずっとまくらもとすわったきりでした。  
   娘(むすめ)がかわいがっていたから、といっても、食事や便所(べんじょ)に行く時以外(いがい)、一歩も動こうとしないのです。  
   ある日、奥方(おくがた)はそのことに気がつき、  
  (もしかして、あのネコが娘(むすめ)を好(す)きになったのが原因(げんいん)で、毎晩(まいばん)苦しむのかもしれない) 
  と、思い、さっそく屋敷(やしき)の者に命じて、ネコを娘(むすめ)の部屋から外へつれ出させました。 
   それでもネコは、いつのまにかもどってきて、娘(むすめ)の枕元(まくらもと)に座(すわ)っています。  
  「これは困(こま)ったことになった」 
   だからといって、ネコを屋敷(やしき)から追い出したら、どんなたたりがあるかわかりません。  
   その夜、明け方に奥方(おくがた)は、夢(ゆめ)を見ました。  
   その中にネコが出てきて、涙(なみだ)を流しながら言うのです。  
  「わたしは、娘(むすめ)さんを大切に思っていても、妻(つま)にしようなんて、考えたことがありません。それなのにあなたは、わたしをうたがって、娘(むすめ)さんの病気の原因(げんいん)だと思いこんでいます。それがくやしくて、くやしくて。じつは、わたしが娘(むすめ)さんのそばをはなれないのは、天井(てんじょう)に大きなテン(→イタチ科のけもの)がいて、娘(むすめ)さんの生気をすいとろうとしているからです。もし、わたしがいなかったら、娘(むすめ)さんはすっかり生気をすいとられて、死んでしまうでしょう。でも、わたしの力では娘(むすめ)さんを守るのがせいいっぱい。テンを退治(たいじ)するためには、兄弟の力をかりなくてなりません。これから、何十里(一里は、約四千(やく4000)メートル)か先の長者の屋敷(やしき)にいる弟をつれてきてください。おねがいします」 
   ハッとして目を覚(さ)ました奥方(おくがた)は、長者にわけを話して、さっそくネコの兄弟のもらわれていった先を調べさせ、屋敷(やしき)の者を使いに出しました。  
   何日かして、屋敷(やしき)の者が、自分の屋敷(やしき)にいるネコそっくりなネコをつれてきました。  
   二匹(2ひき)のネコは、生まれた時からはなればなれで暮(く)らしてきたのに、すぐに仲(なか)よくなり、いっしょに娘(むすめ)の枕元(まくらもと)にすわります。  
   その日の明け方、ふたたび奥方(おくがた)の夢(ゆめ)の中に現(あらわ)れたネコは、  
  「テンは、昼間のうちは倉(くら)にかくれています。明日の午後、わたしたちを五番目の倉(くら)に入れ、外からかぎをかけてください」 
  と、言いました。 
   そこで次の日、長者と奥方(おくがた)は、二匹(2ひき)のネコにたっぷりごちそうを食わせると、言われたとおりにしました。  
   さて、ネコが倉(くら)に入ってまもなく、中からドタンバタンと、ネコのあばれまわる音。  
   長者も奥方(おくがた)も、屋敷(やしき)の者といっしょに、倉(くら)の前へかけつけました。  
   中のさわぎがあまりにもはげしいので、倉(くら)の戸を開けようかどうかとまよっていたら、そのうちに、まったく音がしなくなりました。  
  「どうしたのだろう?」 
   心配になった長者が、思いきって戸を開けると、一匹(1ぴき)のネコが血まみれになってとび出してきました。  
   ビックリした長者が中へとびこんでみると、もう一匹(1ぴき)のネコが、銀色の毛をしたテンののど元に、かみついたまま倒(たお)れています。  
   そばへ行ってみると、テンはすでに死んでいましたが、ネコはかすかに息をしています。  
   そこであわててネコを抱(だ)きあげ、屋敷(やしき)に運んで、血まみれのネコといっしょにかいほうしてやりました。  
   けれどそのかいもなく、二匹(2ひき)ともすぐに息をひきとったのです。  
   ふしぎなことに、その時から娘(むすめ)の具合がよくなり、真夜中がきても苦しむことがなく、次の日の朝、娘(むすめ)はいままでの病気がうそのように起きだしました。  
  「それもこれも、みんなあのネコたちのおかげだ」 
   すっかり喜(よろこ)んだ長者は、たくさんの坊(ぼう)さんをよんできて、二匹(2ひき)のネコのために盛大(せいだい)な葬式(そうしき)をあげ、屋敷(やしき)の庭にネコの塚(つか)(つか)をたててやったそうです。  
      おしまい         
         
        
       
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