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6月21日の日本の昔話
  
  
  
  百目(→詳細)
 むかしむかし、春の日ざしがだいぶかたむきかかったころ。
   ひとりの商人が、荷物をせおって山道をいそいでいました。
   あたりはシーンとして、商人の足音だけが山の中にひびきわたります。
   商人はビクビクしながら、ほそい山道を進んでいきました。
   ふと前をみると、だれか先をいくものがいます。
   商人はホッとして。
  「やれやれ、これでやっと道づれができたわい」
   いそいで追いつくと、声をかけました。
  「なんとも、おみ足のおはやいことで」
  「へえ」
   なんと、ふりむいた男は盲目(もうもく→目の見えない人)でした。
   両目とも、かたくふさがっています。
   商人は、ふと思いました。
  (めくらなのに、つえも持たんで、なんであんなにはやく歩けるんじゃろう)
   商人は盲目のあとを歩きながら、話しかけました。
  「あんたさんは、目が不自由のようですのに、よくまあ、はように歩けますなあ」
   話しあいてができたうれしさに、商人はきかれもしないのに、どんどんしゃべりました。
   村のまつりで反物(たんもの→衣服)を売ってもうけたこと、まつりの山車(だし→まつりなどで引く、飾りのついた車)のみごとだったこと、娘たちの着物や帯のはやりのこと、なんのかんのと、しゃべりつづけました。
   盲目は、ただ、
  「ふんふん、ふんふん」
  と、うなずくばかりです。
   山道が、ひどい石ころ道になりました。
   盲目は、じょうずに石をよけながら歩いていき、商人のほうは、ついていくのがやっとです。
  と、盲目が、ピタリと立ちどまりました。
  (やれやれ、小便でもする気かな)
   商人が、一息つこうとすると、
  「ほう、こんなところにも、春がかくれておりますわい」
   みょうなことをいって、盲目は身をかがめました。
   商人がのぞきこむと、草のかげに、チラリとスミレの花がのぞいています。
   商人はおどろきました。
  (こやつ、めくらのくせに。しかもこの日ぐれがたに、よくもこんな小さな花を)
   なんだか、ゾッとしてきました。
  が、あわてて、つくり笑いをしながらいいました。
  「おまえさんはめくらなのに、このわしよりよっぽど、よう見えるようですなあ」
   すると盲目は、
  「なあに、めくらというものは、なんでも見えるもんですよ」
   そういって、またどんどん歩きだしました。
   商人もしかたなく、あとからどんどんついていきます。
   日がおちると、山の中はきゅうに暗くなりました。
   商人がちょうちん(→詳細)をともすと、盲目がいいました。
  「すまんことですが、あかりをちょっと、かしてもらえんでしょうか。わらじ(→詳細)のひもをむすびなおしたいんで」
  「・・・? ・・・さあさあ、どうぞ」
  (目が見えないのに、あかりとは?)
  と、思いましたが、商人は足もとにちょうちんをさしだしてやりました。
   盲目が着物のすそをまくりあげたとたん、商人は、
  「ウヒャーー!」
  と、さけんで、こしをぬかしてしまいました。
   なんと、盲目のひざから足もとにかけて、ギラギラと光る目玉が、百もついていたそうです。
おしまい