| 
     | 
      | 
     
        6年生の日本昔話 
          
          
         
なぞかけあねさま 
       むかしむかし、ひとりもので、男前(おとこまえ)のわかものが、お伊勢(いせ)まいりにでかけました。 
   さて、お伊勢(いせ)まいりをすませ、茶店でひとやすみしていると、絵からぬけだしたような、うつくしいあねさまが、おなじ茶店にたちよりました。 
  (世のなかにゃあ、なんときれいなあねさまがいるもんだろうか) 
   わかものは、しばらくみとれていましたが、  
  「こんやの宿(やど)をさがさんと、日がくれてしまう」 
  と、町はずれのはたご屋(→旅人のための宿)に、わらじをぬぎました。 
   すると、おなじはたご屋に、茶店でみかけた、あのあねさまが入ってきて、わかもののとなりのへやにとおされました。  
  「あんなきれいなあねさまと、おなじはたご屋でとまりあわせただけでも、お伊勢(いせ)まいりにきたかいがあったというものだ。せめて、どこのどなたか、名まえだけでもしりたいものだが、・・・気はずかしくて、たずねられん」 
   その夜、わかものは、むねがドキドキして、なかなかねつけません。  
   あくる朝、ねぼうしてしまいました。  
   となりのへやのあねさんは、もう、はたご屋をでたあとです。  
  「ああっ、二度と、あのあねさまにはあえんだろう」 
   わかものが一日のたびをおえて、つぎの宿場のはたご屋にとまったところ、となりのへやに、あのあねさまがとまっているではありませんか。  
  「これは、お伊勢(いせ)さまのおひきあわせ。よくよく、えんがあるにちがいない。あすの朝、名まえだけでもきかせてもらおう」 
   わかものは、このばんも、むねがドキドキして、ねつけません。  
   つぎの朝も、ねぼうしてしまい、となりのへやをたずねてみると、あねさまのすがたはありません。  
   わかものがガックリしていると、はたご屋の番頭(ばんとう)がやってきて、 
  「このへやにとまったむすめさんから、これをたのまれました」 
  と、むすび目のあるてがみをわたされました。 
   てがみをひろげてみると、  
  《恋(こい)しくば、たすねきてみよ十七の国、トントン町のそのさきの、くさらぬ橋のたもとにて、夏なく虫のぼたもちがまつ》 
  「はて、なんじゃこりゃ? なぞなぞのうたのようだが、さっぱりわからん」 
   わかものは、よむのがやっとで、このうたにこめられたいみがわかりません。  
   それでも、あのあねさまからもらった、だいじなてがみです。  
   大切に、村へもってかえりました。  
   それから、いく日たっても、わかものは、あねさまのすがたがわすれられません。  
   畑にでても、ためいきばかりついていました。  
   そんなある日、たびの坊(ぼう)さんが村をとおりかかったので、わかものは、あねさまからもらったてがみをよみといてくれるよう、たのんでみました。  
   さすがに、坊(ぼう)さんはものしりです。  
  「いいかね。十七の国とは、年のわかい国。つまり、若狭(わかさ→福井県(ふくいけん))の国じゃ。トントン町とは、おけをつくっている町の音だから、おけ屋町。くさらぬ橋とは、石の橋。夏なく虫といえば、セミで、ぼたもちは、おはぎのこと。つまり、こうじゃ。『恋(こい)しいなら、若狭(わかさ)の国へたずねてきてください。おけ屋町のさきの石橋のたもとにある蝉屋(せみや)のおはぎがまっていますよ』。よかったの。はやく、たずねてゆきなされ」 
  「ヨッシャアーーー!」 
   さあ、わかものは、よろこんだのなんの。  
   とるものもとりあえず、若狭(わかさ)の国へかけつけ、おけ屋町のさきの石橋のたもとにある、『蝉屋(せみや)』という、大きな店に、おはぎさんをたずねあてました。  
   すると、店の中からあのあねさまが出てきて、 
  「いまか、いまかと、まっておりました。さあ、おあがりくださいな」 
   わかものは、おはぎさんと両親にむかえられ、めでたく、おむこさんになりました。  
      おしまい         
         
         
        
       
     | 
      | 
     |