| 
     | 
      | 
     
        5年生の日本昔話 
          
          
         
カッパのねんぐ 
      
       むかしむかし、船頭(せんどう→船で人や荷物を運ぶ人)さんが、いい気持ちで舟(ふね)をこいで川をくだっていました。 
   すると、 
  「船頭さん、船頭さん」 
  と、岸のほうから、声をかけたものがあります。 
   ヒョイとそっちを見ると、かみしもすがたの、りっぱな男が岸に立っていました。  
  「船頭さん。どちらまでおいでですか」 
  「へえ。清河橋(きよかわばし)までいくんですが、なにか、ご用ですかい?」 
  「それはありがたい。じつは、このタルを清河橋(きよかわばし)のたもとにある問屋(とんや)まで、とどけていただけませんか。受け人は、この手紙に書いてあります。おたのみします」 
  「へえ。どうせ、ついでですわい。ひきうけやしょう」 
   舟(ふね)を岸につけると、その男は手紙を船頭さんにわたして、  
  「では、このタルを」 
  と、そばにある大きなタルを指さしました。 
   そして船頭さんに、お金をわたしていいました。  
  「ただ、くれぐれもいうておきますが、このタルは、けっしてあけんようにしてください」 
  「へえ」 
  「どんなことがあっても、あけんようにですぞ。よろしいですな」 
  「へえ。しょうちしやした」 
   船頭さんは、思いがけない大金をもらったので、上きげんです。  
   大きなタルを舟(ふね)につむと、また川をくだっていきました。  
   ところが、しばらくいくうちに船頭さんは、  
  「あのお方は、このタルをあけるなあけるなと、いやにねんをおしとったが」 
  と、タルのことが気になってきました。 
  「まさか、死体でも入っているのでは、あるまいな」 
   どうにも、気になって、  
  「ええ、くそっ。ままよ」 
   船頭さんは、思いきってタルのふたをあけてみました。  
  「??? ・・・こりゃあ、きみょうなもんじゃ」 
   タルの中には、いままで見たこともない、どす黒いものが、いっぱいにつまっています。  
  「なんじゃろう?」 
   さわってみたり、においをかいでみたりしましたが、いっこうにけんとうがつきません。  
  「おお、そうそう」 
   船頭さんは、タルといっしょにわたされた手紙のことを思いだして、さっそくよんでみました。  
   そこには、  
  《カッパの王さまへ。いつもいつも、われわれ臣下(しんか→けらい)のものをおまもりくださいまして、みなみな、心から感謝(かんしゃ)いたしております。さっそくながら、ことしのねんぐをおおさめもうします。なお、ひとこともうしそえますが、ことしは人間どもが、われわれを用心すること、いままでになくきびしく、そのためにきもが九十九しかとれませんでした。まことにもうしわけないことですが、のこる一つは、この船頭のものをさしあげます。どうぞ、ごえんりょなくおとりくださるよう、つつしんでおねがいもうしあげます》 
   これをよんだ船頭さんは、カンカンにおこって、  
  「人間さまのきもをねんぐにとるとは、なんちゅうこっちゃ。えーいっ!」 
   その大タルをかかえあげると、川の中へドボーンと、ほうりこんでしまいました。  
   そしてまた、何事もなかったかのように、舟(ふね)をこいでいきました。  
      おしまい         
         
        
       
     | 
      | 
     |