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        5年生の日本昔話 
          
          
         
舞扇(まいおうぎ) 
       むかしむかし、京の都に、名高いおどりの師匠(ししょう→せんせい)がおりました。 
   そのおおぜいの弟子(でし)のなかに、雪江(ゆきえ)という、けいこねっしんな娘(むすめ)がいって、一本の舞扇(まいおうぎ→日本舞踊(にほんぶよう)に使う扇(おうぎ)で。普通(ふつう)の扇(おうぎ)より大きく、流儀(りゅうぎ)の紋(もん)などをえがいたもの)を、たいそうたいせつにしていたのです。 
   なんでも、雪江(ゆきえ)が父にせがんで、名高い絵師(えし→絵描(えか)き)にかいてもらったとかで、いまをさかりと咲(さ)いている桜(さくら)の花をえがいた、それはまことにみごとな扇(おうぎ)でした。  
   ある日のこと。  
   どうしたことか、雪江(ゆきえ)はこの扇(おうぎ)を、けいこ場にわすれてかえったのです。  
   師匠(ししょう)は、あしたきたらわたしてやろうと、自分の机(つくえ)の上におきました。  
   ところがつぎの日、めずらしく雪江(ゆきえ)はけいこにきませんでした。  
   そしてつぎの日も、またつぎの日も。  
   師匠(ししょう)は、なにやら心にかかって、ふと机(つくえ)の上の扇(おうぎ)をひろげてみました。  
   そこには、扇面(せんめん→扇(おうぎ)を開いた面)いっぱいに、あかるく花が咲(さ)いています。  
   そこへちょうど、友だちの占師(うらないし)がたずねてきました。  
  「ごらんなされ。優雅(ゆうが)なものじゃ」 
   師匠(ししょう)が、ひろげたままの扇(おうぎ)をわたすと、  
  「ほほう、これは美しい。・・・?」 
   友だちの占師(うらないし)は、しげしげとながめていましたが、しばらくして、  
  「お気の毒ですが、この花は、今日中に散りますな」 
   友だちがかえったあとも、師匠(ししょう)はその扇(おうぎ)を、ジッとながめていました。  
  (今日中に散るとは、いったい?) 
   占師(うらないし)のことばが気になって、夕やみのせまったへやに、いつまでもすわっていました。  
  「お食事で、ございます」 
   妻(つま)の声にハッとして、師匠(ししょう)はひらいた扇(おうぎ)を持ったまま立ちあがりました。  
   すると、ハラハラと、白い花びらが散りました。  
   花びらは、あとからあとから散って、風もないのに、チョウが舞(ま)うように、空へ舞(ま)いあがっていきます。  
  「おお、これは!」 
   おどろいて夕ぐれの光にかざして見ると、扇(おうぎ)のおもてには、もう、花のすがたはひとひらものこっていませんでした。  
   そこにあるのは、ただの白い舞扇(まいおうぎ)。  
   師匠(ししょう)は、雪江(ゆきえ)の家にカゴをいそがせました。 
   カゴが玄関(げんかん)につくと、母親があらわれて、  
  「娘(むすめ)は、ほんのさきほど、息をひきとったところでございます。どうぞこちらへ」 
   案内された奥(おく)の間には、雪江(ゆきえ)がしずかにねむっていました。  
   そしてそのへやは、あの桜(さくら)の花びらでいっぱいでした。  
      おしまい         
         
        
       
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