
  福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 7月の日本昔話 > 焼印を押されたカッパ
7月9日の日本の昔話
  
  
  
  焼印を押されたカッパ
 むかしむかし、あるお寺に千寿丸(せんじゅまる)という小僧さんがいました。
   とても器量(きりょう→かしこい)のいい小僧さんで、和尚(おしょう→詳細)さんのお気にいりです。
   ある日、千寿丸(せんじゅまる)は、ほかの小僧さんたちといっしょに花つみに出かけました。
   すると大きな池があって、中ほどに、みごとなハスの花がひとつだけ咲いていました。
  (なんて美しい花だろう。これをつんで帰れば、和尚さん、きっと喜ぶにちがいない)
   千寿丸は、池の土手(どて)をおりていきました。
   そばに生えているつる草をつかんで、ハスに手をのばしましたが、とどきそうでとどきません。
  「あぶないからやめろ」
   ほかの小僧さんたちがとめても、千寿丸はハスの花をとりたい一心で、衣のそでがぬれるのもかまわず、水の上にからだをのりだしました。
   そして、やっとハスの花に手がとどいたものの、うまく折ることができません。
   そこで、もう少しからだをのりだしたとたん、ドブンと、千寿丸は池の中に落ちてしまいました。
   池の水が波うち、ハスの花がゆれていますが、千寿丸の姿はどこにもありません。
   小僧さんたちは、あわてて池のふちをまわりながら、
  「千寿丸! 千寿丸!」
  と、呼びかけましたが、返事はありません。
   気がつくと、いつのまに消えたのか、ハスの花もなくなっていました。
  (千寿丸は、おぼれ死んだのかもしれない)
  と、思った小僧さんの一人が、おおいそぎで和尚さんのところへ知らせに行きました。
   ビックリした和尚さんも、あわてて池へかけつけましたが、千寿丸はどこにもいません。
   和尚さんは覚悟をきめると、池にむかって静かに手を合わせました。
   それから片手に杖(つえ)を持ち、なにやら呪文(じゅもん)をとなえながら、杖の先でさっと北の方をさしました。
   すると、どうでしょう。
   いままで静かだった池の水がはげしく波だち、やがてうずをまいてのびあがり、土手をこえて北の方へと流れ出したのです。
   小僧さんたちは、和尚さんの法力(ほとけによるふしぎな力)のすごさに息をのむばかり。
   水は生きもののように土手をこえていき、たちまち池がカラッポになりました。
   池の底を見たとたん、小僧さんたちは、あっと声をあげました。
   おぼれ死んでいる千寿丸をかこむようにして、何十匹ものカッパ(→詳細)がすわっているのです。
   きゅうに水がなくなったことにおどろき、どのカッパも、キョロキョロとあたりを見まわしています。
  「こんなことだろうと思った」
   和尚さんは、そうつぶやくと池の底へおりていき、杖をふりあげるなり、
  「カツ!」
  と、さけびました。
   そのとたん、カッパたちは和尚さんの法力で、石のように動かなくなりました。
   和尚さんがいいました。
  「なぜ、こんないたずらをする。ハスの花で小僧を水中にさそいこむとは、とんでもないやつだ!」
   和尚さんは、もう二度といたずらをさせまいとして、一匹ずつ、カッパたちの背中に焼印(やきいん)を押しました。
   やがて和尚さんの法力がとけ、からだが動くようになったカッパたちは、そろって和尚さんの前に手をつき、
  「申しわけありませんでした」
  と、あやまったのです。
   それからというもの、このあたりのカッパの背中には、すべて焼印がついていて、人間にいたずらをするものは一匹もいなかったそうです。
   池から流れ出た水はふたたび新しい池となり、そこを鏡池と呼ぶようになりました。
おしまい