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        2年生の日本昔話(にほんむかしばなし) 
          
          
         
雷(かみなり)さまのびょうき 
      
       むかしむかし、下野の国(しもつけのくに→栃木県(とちぎけん))の粕尾(かすお)に、ある和尚さんが住(す)んでいました。 
   和尚(おしょう)は、その名を知(し)られた、お医者(いしゃ)さんでもありました。 
   ある夏(なつ)の、昼(ひる)さがり。  
   でしの小坊主(こぼうず)をつれて、病人(びょうにん)の家(いえ)から帰(かえ)るとちゅうのことでした。  
  「和尚(おしょう)さま、おあついことで」 
  「まったくじゃ」 
   二人は、あせをふきながら歩(ある)いていましたが、とつぜん、ポツリポツリと雨がふりはじめ、みるみるうちに空がまっ暗(くら)になりました。  
  「にわか雨じゃ、いそげ!」 
  「へい」 
   やがて雨は、水おけをひっくりかえしたような、ひどい夕立(ゆうだち)になってしまいました。  
   ゴロゴロゴロ!  
  「きゃー、かみなり! 和尚(おしょう)さま、たすけてー!」 
  「これっ、薬箱(くすりばこ)をほうりだすやつがあるか!」 
  「でも、わたくしは、かみなりが大きらいなので」 
   はげしい雨と、光(ひか)るいなずま。  
   ゴロゴロゴローッ!  
   ドカン!!  
   すぐ近(ちか)くの木に、かみなりが落(お)ちたようです。  
  「わーっ!」 
   和尚(おしょう)さんは、こわがる小坊主(こぼうず)をひきずって、やっとのことで寺(てら)へ帰(かえ)ってきました。  
  「あの、和尚(おしょう)さま。早く雨戸(あまど)をしめてください」 
   かみなりがこわくて、小坊主(こぼうず)がいいましたが、和尚(おしょう)さんは、いなずまが光(ひか)る空を見あげています。  
  「ほほう、このかみなりさんは、病気(びょうき)にかかっておるわい」 
  「へっ? 和尚(おしょう)さまは、かみなりの病気(びょうき)までわかるのですか?」 
  「うむ、ゴロゴロという音でな」 
   さすがは、天下の名医(めいい)です。  
   さてその夜(よる)、ねむっている和尚(おしょう)さんのまくらもとに、こっそりしのびよったものがいます。  
   モジャモジャあたまから二本のツノに、トラ皮(かわ)のパンツ。  
   なんとそれは、かみなりさまでした。 
   でも、なんだか元気(げんき)がありません。  
   和尚(おしょう)さんのそばにすわって、ため息(いき)をついているのです。  
   和尚(おしょう)さんは、うす目を開(あ)けて、ようすを見ていましたが、じれったくなって、先に声(こえ)をかけました。  
  「どうかしたか? なにかおこまりのようじゃが」 
   和尚(おしょう)さんが声(こえ)をかけると、かみなりさまは、和尚(おしょう)さんの前(まえ)にガバッとひれふしました。  
  「わ、わしは、かみなりでござる」 
  「見ればわかる。それで、なにか用(よう)かの?」 
   かみなりさまは、なみだを流(なが)しながらいいました。  
  「わし、この二、三日、ぐあいがおかしいのです。どうか、わしのやまいをなおしてくだされ。おねがいします」 
  「やっぱりのう」 
  「それでその、天下の名医(めいい)ともなれば、お代(だい)は高(たか)いでしょうが。こんなもんでいかがでしょうか?」 
  と、かみなりさまは、小判(こばん)を三まいさしだしました。 
   でも、和尚(おしょう)さんはしらん顔(かお)。  
  「えっ! これでは、たりませぬか」 
   かみなりさまは、こんどは小判(こばん)を五まいさしだしていいます。  
  「では、これで」 
  「わしのちりょう代(だい)はな、うーんと高(たか)いのじゃ」 
  「そうでございましょうなあ。なにしろ、天下の名医(めいい)でございますし」 
  「しかしまあ、金の話(はなし)はあとにして、そこへ横(よこ)になりなさい」 
  「みてくださるんですか」 
   かみなりさまは、大よろこびです。  
   和尚(おしょう)さんは、かみなりさまのからだを、力いっぱいおしたりもんだりしてしらべます。  
  「ひえ〜、いたいよう、たすけて〜!」 
   かみなりさまは、目玉がとびだすほどのいたさに、大声(おおごえ)をあげます。  
   その大声(おおごえ)におどろいて、小坊主(こぼうず)はへやのすみでふるえていました。  
  「これ、小坊主(こぼうず)! なにをしておる。こんどはおきゅうをする。はやく道具(どうぐ)を、もってまいれ!」 
   小坊主(こぼうず)は、ビックリ。  
  「なんで、かみなりなんぞの病気(びょうき)をみるのですか。こわいから、いやです!」 
  「なにをいうとる! おまえも、おきゅうのてつだいをしろ!」 
  「和尚(おしょう)さま、あんな人のめいわくになる、かみなりなぞ、いっそ、死(し)んでいただいたほうが」 
  「ばっかも〜ん!!  どんなものの病気(びょうき)でもみるのが、医者(いしゃ)のつとめじゃ」 
  と、いうわけで、和尚(おしょう)さんはかみなりさまに、おきゅうをすえました。 
  「うお〜っ、あちちち、たすけて〜!」 
   あまりの熱(あつ)さに、かみなりさまは大あばれです。  
   ところが、おきゅうが終(お)わったとたん、かみなりさまはニッコリ。  
  「あーっ、スッキリした。からだがかるくなった。おきゅうすえたら、もうなおった」 
   さすがは、天下の名医(めいい)。  
  「で、お支払(しはら)いのほうは、さぞ、お高(たか)いんでしょうなあ」 
  「ちりょう代(だい)は高(たか)いぞ。・・・じゃが、金はいらん」 
  「じゃあ、ただなんですか?」 
  「いいや、金のかわりに、おまえにしてもらいたいことが二つある。一つは、この粕尾(かすお)では、かみなりがよく落(お)ちて、人が死(し)んだり家(いえ)がやけたりしてこまっておる。これからは、ぜったいにかみなりを落(お)とさないこと」 
  「へい、へい、おやすいことで」 
  「二つめは、このあたりを流(なが)れる粕尾川(かすおがわ)のことじゃ。大雨がふるたびに水があふれてこまっておる。川が村の中を流(なが)れておるためじゃ。この流(なが)れを村はずれにかえてほしい。これが、ちりょう代(だい)のかわりじゃ。どうだ?」 
  「そんなことでしたら、おまかせくだせえ」 
    どんなことをいわれるのか、心配(しんぱい)していたかみなりは、ホッとしていいました。  
  「それではまず、先生のお寺(てら)から粕尾(かすお)の人たちに、おふだをくばってください。これを、家(いえ)の門口(かどぐち)にはってもらうのです。それから、粕尾川(かすおがわ)ですが、流(なが)れをかえてほしい場所(ばしょ)に、さいかち(→マメ科(か)の落葉高木(らくようこうぼく))の木を植(う)えてください。そうすれば、七日のうちにはきっと。・・・では、ありがとうございます」 
   そういったかと思(おも)うと、かみなりさまは、あっというまに天にのぼっていってしまいました。  
   和尚(おしょう)さんは、さっそく村の人たちをお寺(てら)にあつめて、おふだをくばりました。  
   そして、山のふもとにめだつように、さいかちの木を植(う)えつけました。  
   さて、その日は、おてんとさまがギラギラの、よい天気でしたが、にわかに黒雲(くろくも)がわきおこったかと思(おも)うと、いなずまが光(ひか)り、はげしい雨がふりだしました。  
   まるで、天の井戸(いど)が、ひっくりかえったような大雨です。 
   村人たちは、和尚(おしょう)さんからいただいたおふだをはって、雨戸(あまど)をピッタリとしめて、雨がやむのをジッと待(ま)っていました。  
   こうしてちょうど七日め、大雨がピタリとやんだのです。  
   雨戸(あまど)を開(あ)けると、黒雲(くろくも)は遠(とお)くにさり、太陽(たいよう)が顔(かお)を出しています。  
   あれだけの雨だったのに、かみなりは、ひとつも落(お)ちませんでした。  
  「あ、あれを見ろ!」 
  「なんだ、なんだ」 
   村人が指(ゆび)さすをほうを見ると、昨日(きのう)まで流(なが)れていた粕尾川(かすおがわ)がきれいに干上(ひあ)がり、流(なが)れをかえて、さいかちの木のそばを、ゆうゆうと流(なが)れているではありませんか。  
   これでもう、村に洪水(こうずい)がおこる心配(しんぱい)はなくなりました。  
   かみなりさまは、和尚(おしょう)さんとのやくそくを、りっぱに守(まも)ったのです。  
   それからというもの、粕尾(かすお)の里(さと)では、落雷(らくらい)のひがいはまったくなくなったということです。  
      おしまい 
        
       
         
         
        
      
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