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        5年生の日本昔話 
          
          
         
千両箱の昼寝(ひるね) 
       むかしむかし、京の都に、大金持ちがいました。 
   子どものときに村を出て、京の都にやってきたのです。 
   そして、食うものも食わず、ただもう、財産(ざいさん)をつくることだけにむちゅうで、ためた金はあっちの人こっちの人に、クルクルとまわして、りそく(→お金を借りたときに、借りたお金よりも多くのお金を返します。その多い分のお金をりそくといいます)を取りました。  
   こうして、男は銀八千貫(ぎん8000かん)という金持ちになり、金持ちの多い京の都でも、一流の長者(ちょうじゃ)になりました。 
   さて、この男。  
   長者になっても、ただの一度も、親子・兄弟・親類の者を、ひとりとして京ヘまねいたことがありません。  
   ところがどうした風のふきまわしか、今年のぎおんの祭りには、ひとりでもよけいにきてほしいといって、里の者をまねいたのでした。  
   里の者たちは、  
  「有名な、ぎおん祭りがおがめるわい」 
  「とまりがけの、京見物じゃ」 
  と、大よろこびです。 
   兄は兄で、  
  「わしの弟は、京でも名高い長者さまじゃ。ごちそうも、きっとみごとなものにちがいなかろう」 
  と、たいヘんじまんしておりました。 
   まねかれた連中は、親兄弟はもとより、いとこ、はとこ(→親同士がいとこである子の関係)のすえまでも、とっておきのいしょうをつけ、はるばる京ヘのりこんできました。  
   男は、ていねいにみんなをむかえて、  
  「みなさま。遠いところをようおいでくだされた。明日から七日間、ぎおんさまのお祭りでございます。つきましては、お祭りの前祝い。おぜんの用意ができましたので、どうぞ、お席についてくだされ」 
  と、おくのざしきに案内しました。 
   みんなは胸(むね)をワクワクさせて、ぜんにつきましたが、ついてみてビックリ。  
   ぜんの上には、汁(しる)といっても、なっぱのうすい汁(しる)。  
   めしはといえば、精米(せいまい→米の表面を削(けず)り、白米にすること)のてまをおしんだ、黒いげん米。  
   いわいぜんというのに、魚はつけず、ただ、もうしわけていどに、ウリのなますがちょっぴり。  
   酒は、酒屋のちゃんとした酒ではなくて、お酢(す)のような味の、下手な手作りの酒がたったの一ぱい。  
   こんなしみったれたいわいぜんは、いなかにいてさえ、見たことがありません。  
   みんなはあきれて口がきけず、ただ、顔を見あわせるばかり。  
   あまりといえばあまりのことに、男の兄は、  
  「なあ、弟よ。これがぎおんさまのいわいぜんかい? いくらなんでも、おそまつというものじゃないか?」 
  と、いえば、主人は下をうつむいて、ため息まじりに、 
  「まことに、まことに、そのとおり。と、いうのも、今年ほど、まわりあわせの悪い年はなく。何とか運なおしをせねばならんとおもい、こうして、みんなをよんだというわけです」 
   いわれて、兄はビックリ。  
  「なに? ことしはそんなに運が悪いのか。・・・やれやれ。それは心配なこった。いったい、どのように悪いのじゃ?」 
  「話をするより、運のわるいしょうこを、どうかひとつ見てもらいたい。さあさあ、みなさんこちらヘ」 
  と、先にたって一同を、土蔵(どぞう→むかしの倉庫)の前に案内しました。 
   大きなおもい土蔵(どぞう)のとびらをあけて、  
  「さあ、中を見てくだされ」 
   見ると、中には千両箱が、山のようにつみかさねてあります。  
  「ごらんなされ。あのとおりじゃ。いつもの年なら、箱は一つもここにはないはずなのに。どうしたことか、今年はお金どのが家においでじゃ。おかげで、りそくは入らないので金はふえず、まことに、こまったものです。あのように、お金どのが昼寝(ひるね)をしてござってはな」 
   そういって主人は、また、大きなため息をつきました。  
   まったく、ぜいたくな悩(なや)みです。  
      おしまい         
         
        
       
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