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        4年生の日本昔話 
          
          
         
番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき) 
      
       江戸(えど)の番町のあるおやしきに、おきくという、うつくしいこしもとがいました。 
   こしもととは、殿(との)さまの身のまわりのおせわをする女の人です。 
   おやしきには、いく人ものこしもとがいましたが、殿(との)さまの青山播磨(あおやまはりま)は、おきくが大のおきにいりです。  
   いつも、  
  「おきく、おきく」 
  と、かわいがっていました。 
   ほかのこしもとは、おもしろくありません。  
   そして、  
  「ふん、なによ。おきく、おきくって」 
  「おきくも、おきくよ。いいきになっちゃってさ」 
  「ねえ、ちょっと、こまらせてやろうよ」 
  と、わるいそうだんを始めました。 
   それは、殿(との)さまがだいじにしている、十まいひとくみの絵ざらを一まいかくして、おきくのせいにしてやろうというものです。  
   このおさらは、先祖(せんぞ)からつたわる家宝(かほう)で、一まいかけても、ねうちがなくなってしまいます。  
   ある日、ひさしぶりに絵ざらをながめようとすると、九まいしかありません。  
   さっそく、こしもとたちをよびつけて、しらべると、  
  「そのおさらなら、おきくが一まいわったのです」 
   だれもが口をそろえていうので、殿(との)さまは、おきくをきびしくしかりました。  
  「じぶんがわったならわったと、しょうじきにいえば、ゆるしてやる」 
  「いいえ、わたくしには、まったく身におぼえがございません。なにかのおまちがいです」 
  「えーい! かんだいにゆるしてやると言っておるのに、まだいいのがれをするつもりか!」 
  「でも、わたくしは、なにもしりません」 
  「まだ言うか! 顔もみとうない! 出て行け!」 
   かわいそうに、おきくはその晩(ばん)、やしきの井戸(いど)に身を投げて、死んでしまいました。 
   さて、それからというもの、まよなかになると、やしきの井戸(いど)のなかから、  
  「一まーい、二まーい、三まーい、四まーい、五まーい、六まーい、七まーい、八まーい、九まーい、・・・ああ、うらめしやぁ」 
   あわれきわまりないこえで、おさらをかぞえるようになりました。  
   それからというもの、おやしきにはよくないことがつづいて、殿(との)さまもこしもとたちも、つぎつぎと死んでしまいました。  
     
  ※岡本綺堂(おかもときどう)の戯曲(ぎきょく)。1916年(大正5)初演(しょえん)では、お菊(きく)が恋仲(こいなか)の青山播磨(あおやまはりま)の気持ちをためそうと、自分で家宝(かほう)の皿を割(わ)ったことになっています。  
      おしまい         
         
        
       
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