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        6年生の日本昔話 
          
          
         
約束の日 
       むかし、江戸(えど)の本所(ほんじょ)の、いろは長屋のおくに、山口浪之介(やまぐちなみのすけ)と光川新衛門(みつかわしんえもん)という浪人(ろうにん)が、いっしょにくらしていました。 
   このふたりは小さいときからの友だちで、ずっとおなじ殿(との)さまにつかえていましたが、殿(との)さまの家がつぶれて以来、ながい浪人(ろうにん)ぐらしで、いまではその日の米代にもこまるありさまです。 
  「のう、浪之介(なみのすけ)。こんなことをしておっては、ふたりとものたれ死にをするばかりだ。いっそ、べつべつにくらしの道を考えてはどうだろう?」 
  「なるほど。それもよかろう。では新衛門(しんえもん)。三年たったらまたあおう。きっと、わすれずにな」 
   ふたりは、あう場所と時間をきめて、  
  「では、三年あとに」 
  「さらば、三年あとに、かならず」 
  と、かたく約束してわかれました。 
   月日は流れて、まもなく三年です。  
   ところが、山口浪之介(やまぐちなみのすけ)のほうは、どうまちがったのか、世間に名高い盗賊(とうぞく)なって、東海道(とうかいどう)をまたにかけて、あらしまわっていました。  
   それがある日、ドジをふんで役人につかまり、きのう、やっとのことで逃げ出(にげだ)して、海へとのがれたのです。  
   そのとき、ハッと、約束の日のことを思いだしました。  
  「そうだ。このまま東へこいで、江戸(えど)へくだろう」 
   浪之介は、むしょうに新衛門(しんえもん)にあいたくなりました。  
  が、運のわるいことに、突風(とっぷう)にあって、あっというまに舟(ふね)もろとも、波にのまれて死んでしまったのです。 
   そのころ光川新衛門(みつかわしんえもん)は、江戸(えど)にのこって、南町奉行所(みなみまちぶぎょうしょ→裁判所(さいばんしょ))のしらべ役になっていました。  
   友だちの浪之介が盗賊(とうぞく)になって、江戸(えど)に人相書(にんそうがき→犯人の顔のイラスト)までまわっていることを、よく知っていました。  
   今日は、約束の日の朝。  
  「たとえ、浪之介(なみのすけ)がどのような身になろうと、わしにとっては、かけがえのない友だちだ。あおう。やはりあいにいこう」 
   新衛門が、こう心をきめたそのとき。  
   なんと目の前に、浪之介がすわっているではありませんか。  
  「おお、浪之介。よくきた」 
   そういって、新衛門はハッとしました。  
  (ばかな、人相書までまわっているおまえが、なんでおれの家などにくるのだ) 
  「さあ、浪之介、おれがうしろをむいているいるまに、どうかにげてくれ」 
   すると、浪之介はさびしくわらって、こういいました。  
  「なにをいうのだ。おれはおまえの手でしばってもらおうと思ったからこそ、わざわざここまでやってきたのではないか」 
   浪之介は、小伝馬町(こでんまちょう)の牢(ろう)に入れられました。  
   ところがその夜、番人が見まわりにいくと、  
  「新衛門どのに、くれぐれもよろしく」 
  と、いいのこし、ニッコリわらって、スーッと消えてしまったのです。 
   浪之介のすわっていた牢(ろう)の床(ゆか)は、ビッショリとぬれていました。  
   それも、塩気(しおけ)のある海の水だったそうです。  
   浪之介は死んでも、約束通り友だちの新衛門に会いに来たのでした。  
      おしまい         
         
         
        
       
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