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        2年生の日本昔話(にほんむかしばなし) 
          
          
         
卵(たまご)のような顔(かお) 
       むかしむかし、ある村はずれに、景色(けしき)のいい浜辺(はまべ)がありました。 
  「おおっ、なんてすばらしいながめだ」 
   たまたま、そこを通(とお)りかかった男が、ふと前(まえ)を見ると、若(わか)い女がひとりで、松(まつ)の木によりかかって海(うみ)を見ていました。  
   顔(かお)はよくわかりませんが、そのうしろ姿(すがた)は美(うつ)くしく、男はひとこと声(こえ)をかけたくなりました。  
  (なんていおうか。それとも、ちょっとおどかしてやるか) 
   男はこっそり、女のうしろへ近(ちか)づき、ポンと肩(かた)をたたきました。  
   女はおどろいてふりむきましたが、ビックリしたのは男のほうです。  
  「ギャァァァー!」 
  と、さけんだまま、尻(しり)もちをつきました。 
   なんと、女の顔(かお)には目も鼻(はな)も口もなく、まるで卵(たまご)のように、ツルンとしていたからです。  
   男は、はうようにして女のそばをはなれると、あとも見ないでかけだしました。  
   走(はし)って、走(はし)って、村の中まで来(く)ると、道(みち)に人力車(じんりきしゃ)がとまっています。  
  「どこ、どこ、・・・どこでもいいから、早く走(はし)ってくれ!」 
   男は叫(さけ)ぶなり、人力車にとびのりました。  
   すると、人力車のそばにしゃがみこんでいだ車引(くるまひ)きが、のっそりと立ちあがり。  
  「だんな、なんだって、そんなにあわてているんです?」 
  「これが、あわてずにいられるもんか! あそこの浜辺(はまべ)で、恐(おそ)ろしい女にあった!」 
  「恐(おそ)ろしい女ですって。そりゃまた、どんな女で?」 
  「そっ、それはだな。つまりその、なんだ」 
   男がもどかしそうに、説明(せつめい)していると、車引(くるまひ)きが自分(じぶん)の顔(かお)をツルリとなでて、  
  「もしかして、こんな顔(かお)とちがいますか?」 
   車引(くるまひ)きの顔(かお)から、たちまち目も鼻(はな)も口もなくなり、卵(たまご)のようになりました。  
  「うえっ!」 
   男は人力車からとびおりると、メチャクチャにかけだしました。  
   もう、どこをどう走(はし)っているのか、わかりません。  
   あまりにも走(はし)りすぎたため、苦(くる)しくて、苦(くる)しくて、いまにも心臓(しんぞう)が破(やぶ)れそうです。  
   ふと前(まえ)を見ると、野原(のはら)の中に一軒家(いっけんや)がありました。  
   男は、その家(いえ)の庭(にわ)にとびこむと、バッタリとたおれました。  
  「水、水、水をくれ」 
   すると、おかみさんらしい女の人が出てきて、男を助(たす)け起(お)こして、水を飲(の)ませてくれました。  
  「そんなにあわてて、どうしたのです?」 
  「目も、鼻(はな)も、口も・・・」 
   いいかけましたが、息(いき)がきれて、うまくしゃべれません。  
   すると、女がニヤッと笑(わら)い、  
  「そんなら、こんな顔(かお)とちがいますか?」 
  と、いいました。 
   男がハッとして女の顔(かお)を見たら、目も鼻(はな)も口もなく、卵(たまご)のようにツルンとしています。  
  「わあっ!」 
   さけんだきり、男は気を失(うしな)ってしまいました。  
   しばらくして目をさましたら、男は野原(のはら)のまん中で、はだかのままたおれていたそうです。  
      おしまい 
        
       
         
         
        
      
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