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8月31日の日本の昔話
  
  
  
  山ナシとり
 むかしむかし、あるところに親孝行(おやこうこう)な三人兄弟がいました。
   父親が早くに死んだので、母親が三人を育てたのです。
   その母親が病気になったので、三人は必死に看病(かんびょう)をしました。
   ところが、医者にみせても高い薬を飲ませても、どんどんやせていくばかりです。
  「おっかさん、なにか食べたいものはないか?」
   三人が心配してたずねると、
  「おら、奥山の山ナシ(バラ科の落葉高木の果実で、西日本から中国に分布。直径約2センチメートルで、黄色または紅色の外皮に小斑点が散在)が食べたい」
  と、いいます。
   奥山の山ナシは大変おいしいと評判ですが、そこにはおそろしい妖怪が住んでいて、いままで山ナシをとりに行って帰ってきた者はなかったそうです。
  「よし、おれが行こう」
   いちばん上の兄さんがいいました。
   かごを背おい、どんどん山を登っていくと、大きな岩があり、その上にやせたばあさんがすわっています。
  「これこれ、どこへ行く?」
  「おら、奥山へ山ナシをとりに行く。山ナシはどこにあるか教えてくれ」
  「いかん、いかん。あそこには恐ろしい妖怪がいて、おまえを食ってしまうぞ」
  「いいや、どうしても行かねばならぬ。たのむ、教えてくれ」
   兄さんがしつこく頼むので、ばあさんは、
  「そんならしかたあるまい。この先の三本道のところに笹(ささ)がはえている。その笹が『行けっちゃがさがさ』『行くなっちゃがさがさ』と、鳴ってるから、『行けっちゃがさがさ』と、鳴ってるほうの道を行くがよい」
  と、教えてくれました。
   しばらく行くと、ばあさんのいったとおり、道が三本にわかれていて、そこに笹がはえていました。
  (ふん。ばあさんのいうことなんか、あてになるもんか)
  と、思って、兄さんは笹が『行くなっちゃがさがさ』と、鳴ってる右の道を、ドンドン進んでいったのです。
   すると大きな沼があって、沼のほとりに山ナシの実をつけた木が何本もたっていました。
  「こいつはすげえや」
   兄さんが喜んでその一本に登ると、兄さんの影が沼にうつりました。
   そのとたん、沼の水がグワッとゆれ、いきなり兄さんを飲みこんだのです。
   さて、いくら待っても兄さんがもどってこないので、二番目の兄さんが、
  「よし、今度はおれが行こう」
  と、いって出かけていきました。
   ところが二番目の兄さんも、ばあさんのいうことを聞かずに、笹が『行くなっちゃがさがさ』と、鳴ってる左の道を選んだので、いちばん上の兄さんみたいに、沼の妖怪のえじきになってしまいました。
   二人の兄さんがもどってこないので、今度はいちばん下の弟が出かけました。
   どんどん山奥へ登っていくと、大きな岩の上に、やせたばあさんがすわっています。
  「これこれ、どこへ行く」
  「おら、奥山へ山ナシをとりに行く」
  「いかん、いかん、あそこには恐ろしい妖怪がいて、おまえを食ってしまうぞ」
   そこで弟は、病気の母親に山ナシを食べさせたいことや、二人の兄さんがもどってこないことを話して、
  「おら、なにがなんでも行かねばならぬ!」
  と、いいました。
   すると、ばあさんは、
  「兄たちは、わしのいうことをきかぬから、妖怪に飲み込まれたのじゃ。だが、兄たちを助けたいというなら仕方がない、『行くなっちゃがさがさ』の方に行け。それから、困ったときは、これを使え」
  と、いい、弟に刀を渡してくれました。
   弟は兄たちを助けるために、危険な「いくな ガサガサ」の道を行きました。
   どんどん行くと、川があり、かけた茶わんが流れてきました。
  (なにかの役にたつかもしれない)
   弟はそれをひろって、さらにドンドン行くと、大きな沼の前に出ました。
   沼のほとりには、山ナシの木が何本もたっていて、うまそうな実がぶら下がっています。
   弟が喜んで、その一本に登ろうとしたら、山ナシの実が風にゆれながら歌いだしました。
  ♪東の側はあぶねえぞ
  ♪西の側もあぶねえぞ
  ♪北の側は影うつる
  ♪南の側なら安心だ
  (これは、南の側の木から登れということだな)
   そう思って南の側にある木に登ったら、あるわ、あるわ、うまそうな山ナシの実がすずなりです。
   弟は夢中で実をもぎ取り、背中のかごに入れました。
   ところが、おりるときに枝をまちがえて、北側の木にのりかえてしまったのです。
   そのとたん、沼の水が二つにわれて、大入道のような妖怪が弟を頭から飲みこもうとしました。
   弟はあわてず、ばあさんからもらった刀をぬいて、妖怪ののどを突きさしました。
  「ウギャャャャ!」
   妖怪は大きくのけぞって沼の上にたおれ、そのまま動かなくなりました。
   弟が妖怪にとびのって、刀で腹をさいてみると、妖怪のおなかから二人の兄さんが出てきました。
   しかし、二人ともグッタリして動きません。
   そこで弟は、拾った茶わんで沼の水をすくい、兄さんたちに飲ませてあげると、ふしぎなことに二人はたちまち元気になりました。
   三人は手をとりあって喜び、おおいそぎで家に帰りました。
   おいしい山ナシを食べたおかげで、母親の病気はよくなり、三人兄弟と母親は、いつまでもしあわせに暮らしたということです。
おしまい