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        2年生の日本昔話(にほんむかしばなし) 
          
          
         
ネコの茶碗(ちゃわん) 
      
       
      
       むかしむかし、峠(とうげ)で茶店(ちゃみせ)をひらいているおばあさんが、一匹(1ぴき)のネコをかっていました。 
   もともと野良(のら)ネコだったのですが、いつのまにか住(す)みついたものなので、どう見ても、由緒(ゆいしょ)あるネコとは思(おも)えません。 
   ところが、ネコのごはんを入れる茶(ちゃ)わんときたら、なんともめずらしい焼き物(やきもの)で、すこし目ききの人なら、のどから手が出るほどほしくなる品物(しなもの)でした。  
   おばあさんは、そんな茶(ちゃ)わんを平気(へいき)で店先(みせさき)に置(お)き、まるで気にもとめないようすです。  
   ある時(とき)、茶店(ちゃみせ)で休んでいた金持(かねも)ちのだんなが、それを見ておどろきました。  
  (ネコに小判(こばん)とはよく言(い)ったものだ。このばあさん、茶(ちゃ)わんの値打(ねう)ちがまるでわかっていない) 
   そこで、なんとかおばあさんをだまして、ネコの茶(ちゃ)わんを手に入れたいと考(かんが)えました。  
   だんなはネコのそばへ行(い)き、その頭(あたま)をなでながら、  
  「よしよし。なんてかわいいネコだ。じつにすばらしい」 
  「そうですか。一日中ブラブラしているか、食(た)べるだけで、なんの役(やく)にも立たんネコですよ」 
  「いいや、なかなかに、りこうそうな顔(かお)をしたネコだ。それに毛(け)のつやもいい。なんなら、わしにゆずってくれないか?」 
  「かわいがってくれるなら、ゆずってもいいですよ」 
   おばあさんの言葉(ことば)に、だんなは、しめたと思(おも)いました。  
   ネコといっしょに、あの茶(ちゃ)わんもつけてもらえばいいのです。  
  「そんなら、いくらでゆずってくれる」 
  「そうですね。ネコのことですから、高(たか)くも言(い)えませんが、一両(いちりょう→やく7まんえん)でゆずりましょう」 
  「はっ? 一両(いちりょう)!」 
  (こんなきたないネコに、一両(いちりょう)も出せとは、とんだばあさんだ) 
  と、思(おも)いましたが、あの茶(ちゃ)わんは、とても一両(いちりょう)や二両(2りょう)で買(か)える品物(しなもの)ではありません。 
  「わかった。一両(1りょう)出そう」 
   だんなは、ふところから財布(さいふ)を出して、一両小判(いちりょうこばん)をおばあさんに渡(わた)しました。  
  「ところで、ネコをもらったついでに、この茶(ちゃ)わんも、もらっていいかな。新(あたら)しい茶(ちゃ)わんより、食(た)べなれた茶(ちゃ)わんのほうが、ネコもよろこぶと思(おも)うので」 
   そのとたん、おばあさんがピシャリと言(い)いました。  
  「いいえ、茶(ちゃ)わんをつけるわけにはいきません。これは、わしの大事(だいじ)な宝物(たからもの)ですから!」 
  (ちぇっ、このばあさん、茶(ちゃ)わんの値打(ねう)ちをちゃんと知(し)っていやがる) 
   だんなはくやしくなって、思(おも)わず声(こえ)をはりあげました。  
  「大事(だいじ)な宝物(たからもの)なら、なんで、ネコの茶(ちゃ)わんなんかにするんだ!」 
   ところが、おばあさんも負(ま)けてはいません。  
  「なにに使(つか)おうと、わしの勝手(かって)でしょうが! さあ、ネコを持(も)って、とっとと帰(かえ)っておくれ。この茶(ちゃ)わんは、いくら金をつまれたって、ゆずれませんからね!」 
   だんなはしかたなく、ネコを抱(だ)いて店(みせ)を出て行(い)きました。  
   でも、もともとネコの好(ず)きでないだんなは、このきたないネコを見ていると、だんだん腹(はら)がたってきて、殺(ころ)してやろうかとも思(おも)いましたが、でも、ネコを殺(ころ)したところで、一両(いちりょう)がもどってくるわけではありません。  
  「おまえなんか、どこへでも行(い)け!」 
   だんなは、とうげの途中(とちゅう)で、ネコを投げ捨(なげす)てました。  
   ネコはクルリと回転(かいてん)して着地(ちゃくち)すると、そのまま飛(と)ぶように、茶店(ちゃみせ)へともどっていきました。  
  「よし、よし。よく、もどってきたな」 
   おばあさんはネコを抱(だ)きあげると、何度(なんど)も頭(あたま)をなでてやり、  
  「おまえのおかげで、またもうかったよ。これで二十両目(20りょうめ)だね。ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ」 
   おばあさんは、この手で客(きゃく)を次(つぎ)つぎとだましては、どっさり金をためこんだそうです。  
      おしまい 
        
       
         
         
        
      
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