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10月13日の日本の昔話
  
  
  
  はなしずきの殿さま
 むかしむかし、あるところに、たいへんはなしのすきな殿さまがいました。
   はなしをきいているときは、ニコニコしていますが、はなしをきいていないときは、あくびばかりしています。
   けらいたちは、かわるがわる殿さまのところへいって、はなしをしました。
   それで、しまいにははなしがなくなってしまいました。
  「ああこまった。いやになるまで、はなしをしてくれるものはいないのか」
  と、殿さまは、ためいきをつきました。
   ある日、ひとりのわかものが、お城へやってまいりました。
  「殿さまに、おはなしをしにまいりました。おはなしをして、お姫さまをお嫁さんにいただぎます」
  と、いいました。
  「殿さまは、いくらはなしをおききになっても、あきないよ。だいじょうぶか?」
   しんぱいするけらいに、わかものはへいきな顔で、
  「はい。だいじようぶ」
   けらいが、殿さまのところへつれていきました。
   わかものは、さっそくはなしをはじめました。
  「むかしむかし、あったとさ。あるところに、大きな大きなかしの木があったとさ」
  「うんうん。大きなかしの木があったのだね。なるほど、それで」
  「はいはい」
   わかものは、エヘンと、一つせきをしました。
   そしてはなしをつづけました。
  「その大きなかしの木にな。ドングリが、いっぱいいっぱい、なったとさ。そらのほしより、ずっとたくさんなったとさ」
  「ほう、そうか。かしの木に、ドングリがなったのか。なるほどなるほど。それで」
  「はいはい」
  「かしの木はなあ、池のはたにあったとさ。池には石があったとさ。大きな石でな、カメのせなかのように、水にポッカリういていたとさ」
  「ほう、そうかい。かしの木は、池のはたにあったのだね。池には石があったのか。カメのせなかのように、水の上にでていたのだね。なるほどなるほど。それからどうした」
  「はいはい」
  「ドングリが、ポロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ポロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると・・・」
  「まてまて」
   殿さまは、わかもののはなしをとめました。
  「それからドングリが一つ、ボロンと石におちたのだろう」
  「はいはい。そのとおりでございます」
  「コロコロころんで、池へジャボン。そうだろうな」
  「はいはい。そのとおりでございます」
  「そこまではわかった。そのさきをはなせ」
  「はいはい」
   わかものは、おじぎをしました。
  「しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ポロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ポロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると・・・」
  「ちょっとまて」
   殿さまは、むずかしい顔をしました。
  「わかった。そんなにおちたのなら、ドングリは、もうみんなおちてしまったろうな」
  「いいえ、まだまだでございます」
   わかものは、りょう手をいっぱいにひろげました。
  「こんなに大きいかしの木でございます。ドングリのかずはそらのほしよりも、たくさんあるのでございます。なかなかみんなおちません。おはなしは、もっとつづきます。どうぞおききをねがいます。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで、池へジャボン。
   しばらくすると・・・」
   わかもののはなしは、どこまでもおなじでした。
  「まてまて。もうよい」
   殿さまはそういって、一つあくびをしました。
  「ボロンにコロコロにジャボンの、そのはなしは、いつまでつづくのかな」
  「はいはい」
   わかものは、また水をのみました。
  「まだまだでございます。こんな大きなかしの木です。ドングリは、そらのほしより、たくさんあるのでございます。そのドングリが、一つものこらずおちるまで、このおはなしはつづくのでございます。
   しばらくすると、また一つ。
   ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
   コロコロころんで・・・」
  「やめてくれ。もうたくさんだ」
   殿さまは、とうとうあきてしまいました。
   わかものは、はなしをやめて、ニコニコとわらいました。
   やくそくどおり、お姫さまをお嫁にもらったということです。
おしまい