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10月20日の日本の昔話
  
  
  
  カモ汁
 むかしむかし、きっちょむさん(→詳細)と言う、とてもゆかいな人がいました。
   あるとき、庄屋(しょうや→詳細)さんがきっちよむさんのところへ、
  「カモ(→詳細)をたくさんとったので、今夜カモ汁をごちそうするから、くるように」
  と、使いをよこしました。
  (あのけちん坊の庄屋さんが、カモ汁をごちそうするなんて、めずらしいこともあるものだ。よほど、たくさんのカモをとったにちがいない。それともまた、骨董(こっとう→価値のある古い美術品)のじまんかな?)
   きっちょむさんは、思いきり食べてやろうと思って、昼ご飯も夕ご飯も食べないで、庄屋さんのところへ出かけました。
  「おう、よくきてくれたな」
   庄屋さんは、きっちょむさんを部屋にあげると、カモをとったときの自慢話(じまんばなし)をうんと長くしてから、カモ汁をだしました。
   ところが、おわんのふたをとってみたら、中に入っているのはダイコンばかり。やっとのことで、小さいカモの肉が一切れ見つかりました。
  「どうだね、カモ汁の味は。よかったら、どんどんおかわりしてくれ」
   きっちょむさんがおかわりをしても、やっぱりダイコンばっかりです。
  (ふん、なにがカモ汁だ。これじゃダイコン汁と同じじゃないか)
   きっちょむさんは腹を立てましたが、ガマンして、
  「とてもおいしいカモ汁でした。おかげさまで、お腹がいっぱいになりました」
  と、お礼を言って帰りました。
   それを見て、庄屋さんは腹をかかえて笑いました。
  「さすがのきっちょむさんも、とんだカモ汁をくわされたもんだ」
   ところが、二、三日たって、きっちょむさんが、あわてて庄屋さんの家へかけこんできました。
  「庄屋さん、早くきてください。おらの畑に、いま、カモがどっさりとまっています」
  「よし、すぐいく!」
   庄屋さんは、鉄砲を肩にかけ、きっちょむさんのあとから走っていきました。
   でも、畑にはカモなんか一羽もいません。
  「カモなんか、どこにもいないじゃないか。わしをだますと承知(しょうち)しないぞ」
   庄屋さんはすっかり腹を立て、きっちょむさんに鉄砲を向けました。
   でも、きっちょむさんはビクともしません。
  「ほれ、あんなにたくさんいるのが、見えませんか?」
   言われて、きっちよむさんの指さすほうを見ると、一本の木に、ダイコンが何本もぶらさげてあります。
  「ばかもん! あれはダイコンじゃないか!」
  「とんでもない。このあいだ、庄屋さんの家でごちそうになったカモですよ」
  「むっ、むむ・・・」
   さすがの庄屋さんも、これには言い返す言葉がありませんでした。
おしまい