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        4年生の日本昔話 
          
          
         
おスマばあさん 
       むかしむかし、ある山おくの村に、おスマさんという、ばあさんがおりました。 
   はやくに死んだ、じいさんのお墓(はか)をたてようと、二十年間、ほしい物もガマンして、やっとためたお金を、旅の男にだまされて、きれいに持っていかれてしまいました。 
   それ以来(いらい)、村の者はおスマばあさんのことを、バカにしていました。  
   ある日のこと。  
   おスマばあさんのところヘ、役人がふたりづれでやってきました。  
  「この村では、酒をつくっておるじゃろう」 
  「どこの家と、どこの家じゃ。ばあさん、知らんかね」 
  と、聞いてきました。 
   この村は貧乏(びんぼう)なので、税金(ぜいきん)の高いお酒を買うことができず、役人にはないしょで、自分たちでどぶろく(→にごり酒)をつくっていました。  
   役人に聞かれたばあさんは、ゆっくり腰(こし)をのばして、  
  「へえ、旦那(だんな)。ささでこぜえますかい?」 
   役人たちは、うなずきました。  
   酒のことは、「さけ」の「さ」を重ねた言葉の「ささ」ともいいます。  
  「それでしたら、この村じゃあ、山の炭焼小屋(すみやきごや)で、どっさり、つくっておりますだ」 
   それを聞いた、役人たちは、  
  (ウッヒヒヒ。きょうは、たっぷり飲めるわい。ろうやに放り込(ほうりこ)むとおどかせば、金も手に入る。・・・これだから、役人はやめられん) 
  と、顔を見あわせて、ニヤリとわらいました。 
  「わるいが、ばあさん」 
  「そこヘ、案内(あんない)してくれんか」 
  「ちょっと待ってくだっせ。むすこがもどってくるまでに、おらあ、飯(めし)をたいといてやらにゃならんで、ちょっくら、となりまでいって、米かりてくるでな」 
   出かけていったばあさんは、帰ってくると、  
  「さあ、案内(あんない)しますで」 
   おスマばあさんは役人をつれて、山道をスタコラサッサとのぼっていきました。  
   ばあさんのあとから、役人たちはフウフウいいながらついてきます。  
  「このばばあ、年はとっても」 
  「ばかに足は早いわい」 
  と、ブツブツいいながらも、いっしょうけんめいついてきます。 
   やっとのことで、山おくの、ふるい炭焼小屋(すみやきごや)が見えてきました。  
   ばあさんは、小屋のほうを指さして、  
  「旦那(だんな)。ささは、あそこでつくっておりますだ」 
   いわれると、役人たちはかけだしました。  
   小屋の戸をあけると、まるで、ころがるように中ヘとびこみます。  
   ところが、そこはクモの巣(す)だらけで、どこをさがしても、酒のさの字もありません。  
   役人たちは、腹(はら)たてて、  
  「ばば、ばばあ!」 
  「酒は、どこだっ!」 
   すると外から、おスマばあさんが手まねきして、  
  「ヘえ、こっちでさあ。旦那(だんな)、はようきてくだせえ。すぐそこにささは、どっさりございますよ」 
   役人たちが小屋を出て見ると、おスマばあさんが、でっかい笹(ささ)やぶをゆびさして、  
  「いい笹(ささ)じゃろ」 
  と、いいました。 
   そのころ村では、おマスばあさんの知らせを聞いた村人が、どぶろくの入った酒つぼをかくしたあとでした。  
   このことがあってから、村の者はだれも、おスマばあさんをバカにしなくなったということです。  
      おしまい         
         
        
       
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