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        5年生の日本昔話 
          
          
         
大きな運と小さな運 
      
       むかしむかし、ある山おくのほらあなに、ぐひんさんがすんでおりました。 
   ぐひんさんとは、テングのことです。 
   このぐひんさんのうらないは、とてもよくあたるとひょうばんでした。  
   そこで、おなじころに子どもが生まれることになった木兵衛(もくへいえい)と太郎兵衛(たろうへいえい)は、はるばるぐひんさんをたずねて、子どもの運をみてもらうことにしました。  
   ぐひんさんは、大声でじゅもんをとなえると、やがて木兵衛(もくへいえい)にいいました。  
  「神さまのおおせられるには。木兵衛(もくへいえい)、おまえのとこには、竹三本のぶにの子が生まれる」 
  「竹三本のぶに?」 
  「そうじゃあ、人には生まれながらにそなわった運命がある。それすなわち、ぶにじゃ」 
  「というと、おらの子は、たったの竹三本しかそなわらんのか?」 
   木兵衛(もくへいえい)は、ガックリです。  
   ぐひんさんは、こんどは太郎兵衛(たろうへいえい)にいいました。  
  「太郎兵衛(たろうへいえい)、おまえのところには、長者(ちょうじゃ)のぶにの子が生まれる。長者になるさだめじゃあ」 
  「・・・長者ねえ」 
   ぐひんさんのうらないを聞いて、二人は山道を帰っていきました。  
   それからしばらくして、二人の家に子どもが生まれました。  
  「たまのような男の子じゃ」 
  「うちは女の子じゃ」 
   どちらも元気な子で、二人は手をとりあってよろこびました。  
   木兵衛(もくへいえい)の子は吾作(ごさく)、太郎兵衛(たろうへいえい)の子はおかよと名づけられ、二人の子どもはスクスクと育ちました。  
   ある日のこと、木兵衛(もくへいえい)と太郎兵衛(たろうへいえい)が畑仕事をしているところへ、吾作(ごさく)とおかよがきて、  
  「おとう、昼めしじゃあ」 
  「みんなでいっしょに食べようよ」 
  「おうおう、そうすべえ」 
   あぜ道で、四人そろってにぎりめしを食べました。  
  「うまいのう、ありがたいこっちゃ」 
  と、いう太郎兵衛(たろうへいえい)に、おかよはニッコリ。 
   ムシャムシャ・・・、ガチン!  
  木兵衛(もくへいえい)が、かぶりついたにぎりめしに、小さな石が入っていました。 
  「なんや、石なぞ入れおって。ペっ」 
   木兵衛(もくへいえい)は、おこって、めしつぶごと石をはきだしました。  
  「ぺっ、ペっ、ペっ」 
   吾作(ごさく)がおなじようにまねをして、めしつぶをはきだしました。  
  「ああ、もったいないことをして、石だけえらんではきだしたらよかろうに。なあ、おかよ」 
  と、太郎兵衛(たろうへいえい)とおかよは、石についているめしつぶをひろいました。 
   それを見ていた木兵衛(もくへいえい)は、わらいながら、  
  「石だけえらぶなんて、しんきくさいわい。おらあ、しんきくさいことは大きらいじゃ! 太郎兵衛(たろうへいえい)どんは、よくよくの貧乏性(びんぼうしょう)じゃのう。アハハハハハッ」 
   吾作(ごさく)、もいっしょになって大わらい。  
  「おら、どうももったいないことがでけんのや。アハハハハハッ」 
   やがて、大きくなった吾作(ごさく)は町へ行き、おかよはとなり村へはたらきに出ました。  
   そして何年かたって、町へ出た竹三本の吾作(ごさく)は、なんと竹屋にほうこうして、竹かごをあむことや、輪がえの仕事をおぼえて、村にもどってきました。  
   木兵衛(もくへいえい)は、うれしそうにいいました。  
  「よしよし、それだけの仕事を身につけたらりっぱなもんや。そのうちにゃ、竹三本どころか、竹百本、うんにゃ、竹千本の金持ちにだってなれるわい。吾作(ごさく)、がんばれよ」 
   こうして吾作(ごさく)は、村をまわって、輪がえをするようになったのです。  
   でも、毎日毎日、輪がえをしても、お金は思うようにたまりません。  
  「ああ、輪がえというのは、しんきくさい仕事じゃあ」 
   ある日のこと、となり村まで足をのばした吾作(ごさく)は、長者やしきの前でよびとめられました。  
  「輪がえ屋さん、おけの輪がえをおねがいします」 
   お手伝いの娘(むすめ)が、こわれかけたおけを持って、やしきから出てきました。  
  (長者さまなら、輪がえなんぞしないで、新しいおけをこうたらええのに) 
   輪がえをしながら、吾作(ごさく)はそう思いました。  
   そこへ、長者さまの嫁(よめ)さまが通りかかり、輪がえをしている吾作(ごさく)を見て、なつかしそうにいいました。  
  「あれえ、吾作(ごさく)さんやないか。あたし。ほら、小さいころよくいっしょに遊んだ、となりの」 
   吾作(ごさく)は、嫁(よめ)さまの顔を見てビックリ。  
  「ありゃあ! おかよちゃんでねえか。こ、ここの嫁(よめ)さまになられたのでござりまするか?」 
  「ええ。あとでにぎりめしをこさえたげるよって、待っとってな」 
   そういって、やしきに入っていくおかよを、吾作(ごさく)はぼうぜんと見ていました。  
   長者の嫁(よめ)として、なに不自由なく、くらしているおかよは、吾作(ごさく)にも自分のしあわせをわけてあげたいと思い、にぎりめしの中に一まいずつ、小判(こばん)をしのばせました。  
   その小判(こばん)は、おかよが何年もかかってようやくためたものでした。  
   長者やしきの仕事がすんだのは、お昼をだいぶすぎたころでした。  
   はらぺこの吾作(ごさく)は、川岸へいって、おかよからもらったにぎりめしを食べることにしました。  
  「こりゃ、うまそうじゃ。さすが、長者さまの家のめしはちがうわい」 
  と、にぎりめしを手にとり、パクリ。 
   力チン!  
   歯にかたいものがあたりました。  
  「ペッ! なんや、えらい大きな石が入ったもんじゃ」 
   吾作(ごさく)は、にぎりめしを川の中にはきだすと、二つめのにぎりめしにかじりつきました。  
   カチン!  
  「これもや。ペッ!」 
   三つめも。  
   力チン!  
  「これもや。ペッ!」 
   四つめも、五つめも。  
  「なんじゃ、このにぎりめしは? どれもこれもみんな石が入っとるやないか」 
   さいごの一つも、やはり、力チンときました。  
   これも川にはきすてようとして、吾作(ごさく)はふと、そのにぎりめしを見ました。  
  「待てよ、長者の家のめしにゃ、どんな石が入っとるんじゃ? ・・・ややっ、これは!」 
   にぎりめしの中から出てきたのは、なんと小判(こばん)でした。  
  「し、しもうた。まえに入っていたのも、小判(こばん)やったんじゃ」 
   おかよの心をこめたおくりものは、深い川のそこにしずんでしまいました。  
   その話を聞いた木兵衛(もくへいえい)は、吾作(ごさく)におこりました。  
  「なんで、はじめに力チンときたときに、たしかめなかったんや! そうすりゃ、七まいもの小判(こばん)がもらえたじゃろが!」 
  「けど、石だけえらびだすようなしんきくさいことはきらいやろ? やっぱりおらには、運がないんや」 
   木兵衛(もくへいえい)は、そのことばを聞いて、ハッとしました。  
  「そうか、おかよは長者の嫁(よめ)になったし、やっぱりぐひんさんのいうたとおり、竹三本に生まれた者は、それだけにしかなれんということなんや」 
   木兵衛(もくへいえい)がガックリしていると、どこからともなく、ぐひんさんがあらわれて、いいました。  
  「それはちがうぞ、木兵衛(もくへいえい)。おかよが長者の嫁(よめ)になれたのは、こまごまとよう気がついて、物をたいせつにするよいおなごだったからじゃ。いくらええぶにを持っとっても、それをいかせん者もおる。小さなぶにしかのうても、大きな運をつかむ者もおる。 ぶにとは、努力しだいでまねきよせることができるものなのじゃ。心がけひとつじゃぞ、木兵衛(もくへいえい)」 
   それからというもの、木兵衛(もくへいえい)も吾作(ごさく)も、ものをたいせつにするようになり、おかげで、だんだんお金もたまるようになりました。  
      おしまい         
         
        
       
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