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        4年生の日本昔話 
          
          
         
イワナの坊(ぼう)さま 
       むかしむかし、山ぶかい、谷川でのことです。 
   その日は朝から、山ではたらく男たちがあつまってきて。 
  「きょうは祭りだもの、どくもみをして、川のごちそうを、ドッサリとるべえ」 
   男たちはウキウキしながら、したくにとりかかります。  
   サンショウの木のかわをはぎとってきざみ、なべでグツグツとにつめ、その煮汁(にじる)に石灰(せっかい)と木の灰(はい)をまぜ、さらににつめて、いくつもの小さなダンゴにまるめます。  
   これで魚をとる、どくダンゴのできあがりです。  
   どくもみとは、このどくダンゴで魚を殺(ころ)してつかまえることです。  
   すっかり用意ができて、男たちはべんとうをひらきました。  
   祭りの日しか食べられない、ダンゴとアズキめしのごちそうです。  
   ところが、ふと気がつくと、そばにひとりの坊(ぼう)さまが立っています。  
   目のするどい、年とった坊(ぼう)さまです。  
  「おや、坊(ぼう)さま・・・」 
  「おまえたちは、このふちで、どくもみをするらしいのう。だがな、つりをするならばともかく、どくもみだけは、けっしてするなよ」 
   男たちは、だまったまま、顔を見あわせました。  
   どくダンゴをふちになげこむだけで、たくさんの魚がとれます。  
   坊(ぼう)さまにいわれたからと、やめてしまうのはもったいない話です。  
   坊(ぼう)さまは、さとすようにいいました。  
  「どくもみはのう、おまえたちにとっては、かんたんに魚がとれておもしろかろう。だがな、ふちの魚たちはぜんぶ死んで、それこそ根だやしになってしまうのじゃ。みなごろしとは罪(つみ)ぶかいことじゃぞ。なにはともあれ、やめなされ」 
   すると、力じまんのひげ男が、ペコリと頭をさげて、  
  「へえ坊(ぼう)さま、かんがえなおしますので、まあまあ、これでもめしあがってくだされ」 
  と、ダンゴとアズキめしをさしだしました。 
  「そうか、やめてくれるか。それはよかった。・・・では、ごちそうになろうかの」 
   坊(ぼう)さまは、パクリパクリと、のみこむように食べると、どこへともなく、たちさりました。  
  「どこの坊(ぼう)さまかは知らんが、ああいわれてはなあ・・・」 
  「せっかく用意したが、やめにするか・・・」 
  と、男たちは、いいあいました。 
  「いやまて。やめてはつまらん。おれひとりでも、どくもみはするぞ」 
   ひげ男が、いいました。  
   そこでみんなも、いっしょにどくダンゴをふちになげ入れました。  
   しはらくまつうちに、つぎつぎと、たくさんの魚がうきあがってきて、おもしろいほどとれます。  
   さいごにすがたをあらわしたのは、見たこともないような、大イワナです。  
  「これは、ふちの主かもしれねえ」 
   バシャバシャと、あばれるのを、数人がかりでおさえこみました。  
   つかまえたえものを村へもちかえると、女や子どもたちが、よろこんでとりかこみます。  
   まず、小魚をわけあってから、最後(さいご)に、大イワナを切りわけることになりました。  
   ひげ男が、ズバリとはらを切りさくと、  
  「ややっ・・・こ、これは!」 
   なんと、大イワナのはらの中から、ダンゴとアズキめしがでてきたのです。  
  「・・・・・・」 
  「・・・・・・」 
   男たちの顔が、まっさおになりました。  
  「さては、あの坊(ぼう)さまが・・・」 
  「あっ! この大イワナ、死んでもまだ、ギロリと目をむいたぞ」 
   こわくなった女や子どもたちが、にげだしました。  
  「おら、いらねえ」 
  「おらも、えんりょする」 
   男たちも、コソコソとにげました。  
  「だらしねえやつらじゃねえか」 
   ひげ男は、大イワナをひとりで家に持ち帰ると、ぜんぶ食べてしまいました。  
   さて、その日からしばらくして、ひげ男の家では、ひげ男をまっさきに、つぎからつぎへと家の者が死んで、とうとう根だやしになってしまったということです。  
      おしまい         
         
        
       
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