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        6年生の日本昔話 
          
          
         
どくろをかついで 
      
       むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧(こぞう)さんがいました。 
   その一休さんが、大人になったころのお話です。 
  「あけましておめでとうございます」 
  「今年もどうぞよろしくお願いします」 
  と、人びとが、あいさつをかわしている正月の朝。 
   初もうででにぎあう町通りを、きたない身なりの坊(ぼう)さんが一人やって来ました。  
   一休さんです。  
   しかしどうしたことか、長い竹ざお一本を、高だかとかついでいるのです。  
   そしてその先っぽに、なにやら白いものがくっついています。  
  「なんだい、あれは?」 
   よくよく見ると、それはどくろ(→人間の頭の骨(ほね))でした。  
   人びとは気味悪いどくろを見上げて、ビックリ。  
  「お正月そうそう、なんと悪ふざけをする坊主(ぼうず)だ」 
  「一休さんは、頭でもおかしくなったのか?」 
  と、口ぐちにさわぎました。 
   けれども、一休さんはそんな言葉を全く気にせず、すました顔で、どくろをかついであるいています。  
   ものずきな人達は、一休さんのうしろから、ワイワイとついて来ました。  
   やがて一休さんは、町で一番のお金持の金屋久衛(かなやきゅうべえ)さんの立派(りっぱ)な家の前に立つと、耳が痛(いた)くなるほどの大声で、  
  「たのもう、たのもう。一休が正月のあいさつにまいりました!」 
  と、いいました。 
   家の中から人が出て見ると、きたない身なりの一休さんが、気味の悪いどくろをつけた竹ざおをつき立てているので、こしをぬかさんばかりにおどろき、大あわてで家の主人に知らせました。  
   いつもうやまっている一休さんが、わざわざあいさつにやって来たときき、主人は急いで出てきました。  
  「やあ、これはこれは、久衛(きゅうべえ)さん、あけましておめでとう」 
  「一休さん。これはどうもごていねいに。ことしもどうぞよろしく」 
   あいさつをして、ヒョイと竹ざおの先のどくろを見たとたん、  
  「あっ!」 
  と、いったまま、まっさおになりました。 
  「も、もし、一休さん、これはいったいどうしたことですか? 正月そうそう、どくろを持って来るなんて、えんぎが悪いにもほどがあります」 
   怒(おこ)る久衛さんに、  
  「わっははははははは」 
   一休さんは、お腹(なか)をゆすっての大笑いです。  
  「まあまあ、久衛さんや、正月そうそうおどろかしてすまん。これにはわけがあるのじゃ」 
  「どんなわけですか?」 
  「うむ、そのまえに、わしがつくった歌を聞いてほしいがのう」 
   一休さんは、声高らかに歌をよみ上げました。  
  ♪正月は、めいどのたびの、一里塚(いちりづか) 
  ♪めでたくもあり、めでたくもなし 
   一休さんの歌に、久衛さんは首をかしげました。  
  「はて、『めでたくもあり、めでたくもなし』とは? 一休さん、これはどういう意味でしょうか?」 
  「うむ。誰(だれ)でも正月がくると、一つずつ年をとる。ということは、正月が来るたびに、それだけめいどへ近づく、つまり死にちかづくわけだ。だから正月がきたといって、めでたがってもいられない。それで、めでたくもあり、めでたくもなしじゃよ」 
  「ああ、なるほど」 
  「どんな人でも、必ずいつかは死ぬ。そして、このようなどくろになりはてる。こういうわたしだって、あと何回正月をむかえられるかわからん。あんたもおなじじゃよ」 
  「はい。たしかに」 
  「久衛さんや、生きているうちに、たんといいことをしなされや。そうすりゃ、極楽(ごくらく→てんごく)へ行かれるからの」 
  「はい!」 
  「あんたは大金持ちだ。少しでいいから、あまっているお金は困(こま)っている人たちにあげなされ。めいどまでは、お金はもっていけんからな。はい、さいなら」 
   大金持の久衛さんをはじめ、ほかの大勢のお金持が、この一休さんの教えをまもって、まずしい人びとをたすけたということです。  
   また一休さんに、「これでお寺を建ててください」と、お金を持ってきても、一休さんは、一文も受取らなかったそうです。  
      おしまい         
         
         
        
       
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