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12月26日の日本の昔話
  
  
  
  夢見小僧
 むかしむかし、あるところに金持ちのだんながいました。
   正月の二日に、小僧たちを集めてたずねました。
  「どんな初夢を見たか、ひとつ聞かせておくれ」
   そこでひとりずつ話しましたが、いちばんちびの小僧だけは、ことわりました。
  「あんまりいい夢だから、人には聞かせられねえ」
   むかしからいい初夢は、人に聞かせてはいけないと言われています。
  「よし、じゃ、その夢を買おう。百文(三千円ほど)、二百文。・・・えい、一両(七万円ほど)ならどうだ」
  「いやです」
   小僧がことわるので、だんなはカンカンに怒って、
  「えいっ、こんな強情(ごうじょう)なやつは、海に流してしまえ!」
  と、どなりつけました。
  「これでも食って、どこへと行くがいい!」
   小僧は、こなもちといっしょに、小舟に乗せられてしまいました。
   小舟は風吹くままに、ユラユラ流れて沖へ出ました。
   広い広い海を、どこまでも行きました。
   すると、島が見えてきました。
   島にあがると、たくさんのサルたちが小僧を見つけてやってきました。
  「ウキッ、うまそうな人間だぞ」
   サルたちが歯をむき出して、押し寄せてきました。
   ビックリした小僧は、こなもちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、サルが拾って食ベるまに、やっとのことで逃げ出しました。
   サルの島をあとにして、小舟は波のまま、風のまま、海を流れていきました。
   ズンズンいくと、また島が見えました。
   近寄ると赤鬼、青鬼、おおぜいの鬼たちが、小僧を取り囲みました。
  「おう、うまそうな人間だぞ」
  「頭から食おうか、足から食おうか」
   小僧は、またこなもちを投げましたが、鬼たちは見向きもせず、小僧につかみかかりました。
  「おらを食うのは、ちっと待てやーい!」
   小僧は叫びました。
  「そのかわり、だんなにさえ教えなかった初夢を教えてやる。すごい初夢だぞ」
  「よーし」
  と、鬼たちは答えました。
  「そんなら、とっとと話せ」
  「話してやるが、鬼どん、おまえたちは、おらになにをくれる?」
   そこで鬼たちは、りっぱな車を引いてきました。
  「千里万里(せんりまんり)の車といって、わしらの宝だ。鉄棒で一つたたけば千里(四千キロ)、二つたたけば万里いくぞ。これでどうだ」
   小僧がわざとしぶい顔をして見せると、今度は二本の針を持ってきました。
  「この針で刺すと、元気なやつもすぐに死んでしまう。だが、死にそうなやつを刺すと元気になる。この宝もやろう」
  「よし、いいだろう」
   小僧は針を受け取ると、車にヒョイと飛び乗って、鉄棒で一打ちしました。
   車はピューンと走りだし、あとに残った鬼たちは、涙をこぼしてくやしがりました。
   車は空をひとっ飛びして、おりた所は広い田んぼです。
   小僧はも一つ、車を鉄棒で打ちました。
   すると、大きな橋の下に出ました。
   そこで車をおりて、近くの茶店に入りました。
   茶店でもちを食べていると、となりの屋敷の門から、おおぜいの人が出たり入ったりしています。
  「となりじゃ、なにか変わったことでもあるのかね?」
   小僧が茶店の人にたずねると。
  「へえ、なんでも、ひとり娘のおじょうさんが病気で、今にも死にそうだということですだ」
   小僧はさっそく、となりの屋敷へ行きました。
  「オホン。わたしが、娘さんの病気をなおしてあげよう」
   小僧が娘さんにチクリと針を刺すと、娘さんはたちまち元気になりました。
   それを見て、家じゅう大喜びです。
  「おまえさまは娘の命の恩人ですだ。どうか、うちの息子になってくだされ」
   屋敷のだんながたのみました。
  「ああ、いいよ」
   それから小僧が、毎日ごちそうを食ベて楽しく暮らしていると、川向こうの金持ちの家でも娘が病気になり、ぜひ、なおしてくれと頼んできました。
   小僧はまた、針を刺して娘さんを元気にしてやりました。
   その家でも大喜びです。
  「娘の命の恩人ですだ。どうか、うちの息子になってくだされ」
  と、頼みました。
  「それでも、おらのからだは一つだもの。二軒の息子にゃ、なれねえ」
   すると金持ちのだんなは、二軒の家の間の川に、金の橋をかけてくれました。
   そこで小僧は、お日さまの光で虹のようにかがやく橋を渡って、1ヶ月の半分をこちら側、あとの半分を川向こうの家で過ごすことになりました。
   小僧の見た初夢とは、ふたりの娘の間にかかる虹のような金の橋を、渡る夢だったのです。
おしまい