| 
      | 
     
        3年生の江戸小話(えどこばなし) 
        
      いしゃちがい 
      
      
       むかし、医者(いしゃ)が、ひとりで旅(たび)をしておりました。 
   いなか道を、歩いておりますと、 
  「もし、もし、医者(いしゃ)どの」 
  と、よびとめられて、医者(いしゃ)は、あたりをながめまわしました。 
  が、だれもおりません。 
  「はて、ふしぎな」 
  と、きょろきょろしておると、 
  「医者(いしゃ)どの。わしじゃ、わしじゃ」 
  と、いう声。 
   なんと、すぐそばに立っていた、石の地蔵(じぞう)さんが、よびとめたのでした。 
  「はい、地蔵(じぞう)さま。なんぞ、ご用で?」 
  「うむ、まことにすまんが、このとおり、わしの鼻(はな)がかけておるだろう。どうぞ、直してくださらぬか」 
   そう言われて、医者(いしゃ)は、地蔵(じぞう)さまの鼻(はな)を見ておりましたが、  
  「なるほど、これはまた、ひどいかけようでございますな。すみませんが、とても、わたくしの手にはおえませぬ」 
  「お主(ぬし)は、医者(いしゃ)だろう。そういわず、たのむ。直してくだされ」 
  「いやいや、たしかに医者(いしゃ)ですが、せんもんが、ちがいます。この鼻(はな)は、わたくしのような小さい『ゃ』よりも、大きい『や』のお人になおしてもらったほうが、よろしいかと」 
  「・・・? その、大きい『や』とは?」 
  「あなたさまは石ですので、『いしゃ』よりも、『いしや(石屋(いしや))』でございます」 
      おしまい         
         
         
        
       
     | 
      | 
     |