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        3年生の江戸小話(えどこばなし) 
        
      五両(5りょう)と五分 
      
      
       お祭(まつ)りが、やってきました。 
   町内の若(わか)いものが集(あつ)まって、いろいろ相談(そうだん)をしたあげく、芝居(しばい)をやることにきまりました。 
   役(やく)の名を、紙にかき出して、  
  「おい、三太(さんた)。おまえ、一番若(わか)いんだ。ひとっ走り、呉服屋(ごふくや→服屋(ふくや))までいって、これだけのいしょうが、いくらでできるか、きいてこい」 
  「おいきた」 
   三太は、いきおいよく、呉服屋(ごふくや)まで、かけていきました。  
   お店の番頭(ばんとう)は、紙に書いた役(やく)をよみあげ、パチッパチッと、そろばんをはじいて、  
  「へえ、しめて、五両(5りょう)と五分(四十万円ほど)になります」 
   三太は、わすれるとこまるので、  
  「あの、紙に書いてください」 
   すると、番頭は、  
  「いや、いや。紙に書くほどのことはない。それ、おまえさんのこっちの手の指(ゆび)。一本を一両(いちりょう)として、こう五本まげて五両(5りょう)。こっちの手の指(ゆび)は、一本一分で、五本まげて五分。両手(りょうて)をあわせると、ほれ、五両(5りょう)と五分。わすれっこは、ありますまい」 
  「なるほど」 
   三太は、両手(りょうて)をにぎったまま、表(おもて)へ出ると、  
  「こっちの指(ゆび)が五両(5りょう)。こっちの指(ゆび)が五分。両手(りょうて)をあわせて、五両(5りょう)と五分」 
   つぶやきながら、歩いていましたが、なにをおもったが、くるりともどって、呉服屋(ごふくや)に入り、  
  「あのう、番頭さん。どうか、二分か三分、まけてください」 
  「まあ、いいですが、それにしても、どうしたわけで?」 
   すると、三太は、二つのこぶしを突き出(つきだ)して、  
  「これでは、帰っても、戸があけられません」 
      おしまい         
         
         
        
       
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