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        2年生の江戸小話(えどこばなし) 
        
      拾(ひろ)い屋(や) 
      
      
       あるところに、貧乏長屋(びんぼうながや)がありました。 
   その長屋(ながや)に、茂作(もさく)という男が、こしてきました。 
   ところがこの男、いったい何(なに)をしてくらしているのやら、毎朝(まいあさ)早くでかけては、日のくれに帰(かえ)ってきますが、商売道具(しょうばいどうぐ)ひとつ持(も)って行(い)きません。  
   ふしぎでならない家主(やぬし→大家(おおや))の親父(おやじ)が、あるとき聞(き)いてみました。  
  「おらの商売(しょうばい)か? おらの商売(しょうばい)は、拾(ひろ)い屋(や)だ」 
  「拾(ひろ)い屋(や)? はて、それは、どういうことだ」 
  「なあに、毎日(まいにち)町ん中を歩(ある)いて回(まわ)れば、何(なに)かひとつは、拾(ひろ)うて帰(かえ)れるもんだ、おら、それでくらしてるんだ」 
  「・・・・・・?」 
   親父(おやじ)には、よく意味(いみ)がわかりません。  
  (ようし、それならひとつ) 
  と、親父(おやじ)は次(つぎ)の朝早(あさはや)く、茂作(もさく)のあとを、そっとつけていきました。 
   そんなこととはつゆ知(し)らず、茂作(もさく)は、通(とお)りをまっすぐ歩(ある)いていきます。  
   町の中ほどをすぎても、相変(あいか)わらず、てくてく歩(ある)いていくばかり。  
   やがて、神社(じんじゃ)の境内(けいだい)を通(とお)り、となりの町までやって来(き)ましたが、何一(なにひと)つ、拾(ひろ)うようすはありません。  
   こんなちょうしで、町という町を全部(ぜんぶ)歩き回(あるきまわ)るうちに、夕方(ゆうがた)になりました。  
   茂作(もさく)も、あきらめたのか、やっと家(いえ)にもどるようすです。 
   おかげで親父(おやじ)も、くたびれ果(は)ててもどってきましたが、ハッと気がつくと、どうやら、ふところのお金(かね)を二百文(200もん→6000円)をおとしていました。  
  「あいつのせいで、ろくなことはねえ」 
  と、ひとり言(ごと)をいっていると、そこヘ茂作(もさく)が帰(かえ)ってきました。 
  (腹(はら)は立つが、文句(もんく)をいうわけにはいかんわい) 
   親父(おやじ)は、しらんかおで、いいました。  
  「今日(きょう)は、ええ日よりで人もおおかったろうし、さぞ、ええ物(もの)を拾(ひろ)ったろう」 
  「それが親父(おやじ)どん、今日(きょう)はいつになく、不景気(ふけいき)じゃった。けれども、帰(かえ)りがけに、そこの路地(ろじ→せまい道(みち))で二百文(200もん)を拾(ひろ)うたんで、まあ、一日歩(ある)いたかいは、ありました」 
      おしまい 
        
       
         
         
        
      
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