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        3年生の江戸小話(えどこばなし) 
        
      ふぐ汁(じる) 
      
        ふぐには毒(どく)があるため、むかしはふぐを食べて死んだ者が大勢いました。 
 でもふくはとてもおいしいので、みんな危険をおかしてでもふぐを食べたのです。 
 
 ある日、一人の男が散歩していると、両国橋(りょうごくばし)の近くで若者たちが騒いでいました。 
「よう。みんなそろって、何を騒いでいるんだ?」 
「やあ、源兄(げんにい)か。実はふぐをもらったんだが、ふぐには毒があるだろう。だから誰も食おうとしないんだ」 
「ほう、ふぐか。そんな事なら橋の上のこじきに、毒味をさせたらどうだ?」 
「なるほど。そいつは、うまい考えだ」 
 そこでさっそく、大なベにいっぱいのふぐ汁を作りました。 
「源兄。行ってくれるか」 
「よしきた。そのどんぶりばちに、ふぐ汁を入れてくれ」 
 源さんはふぐ汁を持って、橋の上にやってきました。 
 そして寝ていたこじきをゆすぶりおこして、ふぐ汁を差し出しました。 
「よう、寒いねえ。出来たてのふぐ汁を持ってきたが、食わねえか。体が温まるぞ」 
「おありがとうございます」 
「食うか」 
「へえ。おありがとうございます」 
 そこで源さんはこじきの出したおわんの中ヘふぐ汁を入れてやると、ニヤニヤしながら帰ってきました。 
 それから、しばらく待ちました。 
 源さんが再び様子を見に行きますと、さっきのこじきは元気でピンピンしています。 
「これなら、大丈夫だ。さあみんなで、ふぐを食べよう」 
 みんなは安心して、ふぐ汁を食べ始めました。 
 
「ああ、うまかった」 
「それにしても、ふぐとはうまい魚だな」 
「毒があっても、食べたがる気持ちがわかるよ」 
「どうだい。腹がふくれたから、表を少し歩こうじゃないか」 
「いいねえ、いこうか」 
 そこでみんなは、橋の方へ歩き出しました。 
 そしてこじきのそばまで来ると、わざと大声で言いました。 
「さっきのふぐは、うまかったなあ」 
「おお。ふぐはやっぱり、かくベつの味だ」 
 さっきのこじきは源さんの姿を見つけると、顔をあげてたずねました。 
「だんな方、もうふぐ汁をおあがりになりましたんで?」 
「おお、食ったとも」 
「お味は?」 
「いやはや、もうとほうもなくうまかったわ」 
「それで、お体の具合は?」 
「この通り、ピンピンしておる」 
 するとこじきは、ふところからふぐ汁の入ったおわんを取り出して言いました。 
「それではわたしも安心して、いただかしていただきます」 
      おしまい         
         
         
        
       
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