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        3年生の日本民話(にほんみんわ) 
          
          
         
魔法使(まほうつか)いの文王 
秋田県(あきたけん)の民話(みんわ) 
       むかしむかし、秋田の仙北郡六郷(せんぼくぐんろくごう)に、文王(ぶんおう)という男が住(す)んでいました。 
   地元の人たちは、 
  「あいつは、魔法使(まほうつか)いじゃ」 
  「へたな事(こと)をいうと、どんな目にあわされるかわからん」 
  と、ひどくこの男を、恐(おそ)れていました。 
   ある時の事(こと)、文王が横手(よこて)の町に現(あらわ)れて、 
  「今日は、この横手一(よこていち)の大橋(おおはし)、蛇の崎橋(じゃのさきばし)をのんでみせるぞ」 
  と、大声でいいふらしました。 
   さて、文王が橋(はし)をのむというので、大勢(おおぜい)の人があつまってきました。 
   川の両岸(りょうがん)はもちろん、家の屋根(やね)や木の上にまで、見物人(けんぶつにん)でいっぱいです。 
   文王はごきげんで、ニヤニヤとわらいながら、橋(はし)のたもとを何度(なんど)も歩きまわっています。 
   するといつのまにか、橋(はし)はもう文王の口の中へ、半分ほどのまれているのです。 
   あまりの事(こと)に、見物人(けんぶつにん)はあっけにとられて、声を出す物(もの)は一人もいませんでした。 
  と、そのとき、観音寺(かんのんじ)の大杉(おおすぎ)にのぼって見ていた一人の男が、 
  「おーい、みなのしゅう! 文王は橋(はし)などのんではおらんぞ。ただ、うろうろ歩いておるだけじゃあ!」 
  と、大声でどなりたてたのです。 
   さあ、それを聞いた文王はカンカンに怒(おこ)ると、ズカズカと大杉(おおすぎ)の根(ね)もとに近づき、両手(りょうて)をくみあわせて、杉(すぎ)にむけて術(じゅつ)をかけはじめました。 
   すると杉(すぎ)の大木が、ギギギーとひびきをたてて、川の中まで弓なりになってたれさがったからたまりません。 
   男は見事(みごと)にふりおとされて、ボチャーンと川の中へ水しぶきをあげて落(お)ちてしまいました。 
   男が落(お)ちると、杉(すぎ)の木は前とおなじように、ちゃんと寺の前に立っています。 
   気をよくした文王は、ニヤニヤとわらいながら、町のさかり場のほうへ歩いて行きました。  
   そして、一軒(1けん)の茶店に入ると、 
  「酒(さけ)をたのむ。あつかん(→あたためた、お酒(さけ))で、いそいでな」 
   文王は塩(しお)をさかな(→お酒(さけ)のおつまみの事(こと))に、グビリグビリとお酒(さけ)を飲(の)み始(はじ)めました。 
   だいぶいい気持(きも)ちになったところへ、ウマ方(→ウマを引いて、荷物(にもつ)や人を運(はこ)ぶ仕事(しごと)の人)が十人ほど入ってきました。 
  「じいさん、酒(さけ)だ、酒(さけ)だ!」 
   ウマ方たちは、酒(さけ)がまわると、ウマのじまん話を大声ではじめました。 
   そばできいていた文王は、表(おもて)につないだウマをチラリと見ると、いきなり大きな声で、 
  「どいつもこいつも、やせウマばかりだな。うわははははっ」 
  と、バカにしたように笑(わら)ったのです。 
   それを聞いたウマ方たちは、怒(おこ)って文王につっかかってきました。 
   ところが、文王は、  
  「まあ、お前たち。そう怒(おこ)るもんじゃねえ。おれはただ、本当のことをいっただけのことさ」 
  「なにっ!」 
  「怒(おこ)るな、怒(おこ)るな。こんなやせウマの十頭ぐらい、おれならわけなくペロリとのみこんでみせるぞ」 
  「うそをつくな! のみこめるというなら、いますぐここでのみこんでみろ!」 
  「そうだ、そうだ。のみこんでみろ!」 
  「のみこんでみろ!」 
   文王はニヤリとわらって立ちあがると、みんなが見ている前で、一頭のウマのしっぽをつかんで、スーッと、お酒(さけ)を入れていたとっくりの中に押し込(おしこ)んでしまったのです。 
  「・・・・・・」 
   ウマ方たちはビックリして、声も出ません。  
   文王は次(つぎ)から次(つぎ)へと、十頭のウマはとっくりの中に入れてしまうと、とっくりをみんなの前にならべて、 
  「そーら、十頭のウマをひと口にのむぞ。見ていろ」 
  と、とっくりの中身(なかみ)をうまそうにのどを鳴らしながら、のみほしてしまったのです。 
   さあ、ウマ方たちの顔が青くなりました。  
   自分たちからのんでみろといったてまえ、いまさら文句(もんく)もいえません。 
   十人はそろって、文王の前に手をついて、  
  「どうぞ、わしらのウマをかえしてくだされ。おねがいしますだ」 
  「おねがいしますだ」 
  と、何度(なんど)も何度(なんど)も、頭をさげました。 
   文王は、それを見ると、  
  「よし。かえしてやろう。そのかわり、わしに思うぞんぶん酒(さけ)をのませろ。どうだ」 
  「へえ、へえ。そりゃあ、ウマをかえしてくださるならば」 
  「どうぞ、どうぞ、お酒(さけ)のほうはいくらでも」 
   そこで文王は、十人のウマ方を前にして、ただの酒(さけ)を飲(の)みに飲(の)んで、四斗(4と)だる(→およそ、七十二リットル)を、すっからかんにしてしまいました。 
  「どれ。少し酔(よ)ってきたし、そろそろでかけるとしようか。ウマをかえしてやるぞ。みんなついてこい」 
   店を出た十人のウマ方は、文王のあとを、ぞろぞろとついていきました。  
   しばらくいくと、文王は立ちどまって指(ゆび)さしました。 
  「それ、あそこだ」 
   そこは広い墓場(はかば)で、飲み込(のみこ)んだはずの十頭のウマは、のんびり草を食べていたという事(こと)です。 
      おしまい         
         
         
        
       
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