| 
     | 
      | 
     
        6年生の日本民話 
          
          
         
牢(ろう)の中の娘(むすめ) 
東京都の民話 
       むかしむかし、一人の娘(むすめ)が両国橋(りょうごくばし)のたもとに倒(たお)れていましたが、みんなは通りすぎるばかりで、だれ一人ふりかえろうとしませんでした。 
   娘(むすめ)のかっこうからすると、どうやら旅の巡礼(じゅんれい→聖地(せいち)・霊場(れいじょう)を参拝(さんぱい)してまわること)のようです。 
   さて、もう日がくれかかろうとしているころ、四角い荷物をせおった、若(わか)い商人の男が通りすぎようとして、娘(むすめ)に気がつき立ちどまりました。 
   娘(むすめ)を見てみると、ひどく疲(つか)れた顔をしていますが、ほっそりとした顔立ちで、どことなく品のある娘(むすめ)でした。 
  「ああ、これはひもじゅうて、歩けんのじゃな」 
   その若者(わかもの)は直吉(なおきち)という、貧しい小問物商人(こまものしょうにん→化粧品(けしょうひん)など、こまごましたもの扱(あつか)う商人)でした。 
   娘(むすめ)がひもじくて動けないのが一目でわかったのは、自分も小さいときから、ひもじい思いをしてきたからです。 
   直吉(なおきち)は娘(むすめ)をかわいそうに思い、自分の長屋(ながや)へとつれて行きました。 
   そして、少しばかりのこっていたお米でおかゆを作ると、娘(むすめ)に食べさせようとしました。 
   ですが娘(むすめ)は、ひと口おかゆをすすると小さな声で、 
  「ありがとう」 
  と、いって、そのまま死んでしまったのです。 
   直吉(なおきち)は自分の貯金をみんなつかって、なんとか娘(むすめ)の葬式(そうしき)を出してやりました。 
   でも、そのおかげで食べるものも買えなくなった直吉(なおきち)は、いく日もいく日も、ひもじい思いをしなければなりませんでした。 
   ところがある日の朝、直吉(なおきち)が起きてみると、ちゃんと朝ごはんのしたくができているのです。 
   そんな事が何日もつづいているうちに、娘(むすめ)の幽霊(ゆうれい)が、米屋や、八百屋(やおや)や、魚屋に現れるといううわさが町に広がりました。 
   そして娘(むすめ)の幽霊(ゆうれい)がきたあとは、かならず店の品物が少しずつなくなっているというのです。 
   その話は、町中の評判になりました。  
   そしてついに、  
  「米も、野菜も、魚も、みんな直吉(なおきち)の家へ持っていくんじゃ」 
  「きっと、直吉(なおきち)が幽霊(ゆうれい)をつかって、ぬすみをはたらかせているにちがいない」 
  と、いうことになってしまったのです。 
   それでとうとう、直吉(なおきち)は役人につかまって、取調べをうけることになりました。 
  「そのほうは、幽霊(ゆうれい)をつかってぬすみをはたらく、妖術(ようじゅつ)つかいじゃそうな。まこと、それにそういないか?」 
  「いいえ、とんでもございません! なんでこのわたくしに、そのようなおそろしい妖術(ようじゅつ)などがつかえましょう」 
  「だまれ! 町の者が、さようにもうしておるぞ。うせた品々(しなじな)はみな、そちの家へまいっておるとな。世をみだす、にっくきやつじゃ。重いおしおきをうけるがよい」 
   直吉(なおきち)は罰(ばつ)として、何日も何日も、一人だけの暗い牢屋(ろうや)に放り込(ほうりこ)まれてしまいました。 
   ところがその直吉(なおきち)のとなりには、いつも巡礼(じゅんれい)すがたの美しい娘(むすめ)が、よりそうようにすわっていたという事です。 
      おしまい         
         
        
       
     | 
      | 
     |