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        3年生の世界昔話(せかいむかしばなし) 
          
          
         
雪だるま 
アンデルセン童話(どうわ) → アンデルセン童話のせつめい 
       むかしむかし、たくさん雪がふったので、ある屋敷(やしき)の一番小さい男の子が、雪だるまをつくりました。 
   次(つぎ)の日、雪だるまはひとりごとを言いました。 
  「へんだなあ? ぼくの体の中で、ミシミシと音がするぞ」 
   雪だるまは、瓦(かわら)のかけらでできた目で、西の空を落(お)ちていくお日さまをにらんで、またひとりごとを言いました。 
  「ギラギラ光ったって、ぼくは、まばたきしないよ」 
   そして、東の空に姿(すがた)を見せ始(はじ)めたお月さまを見つけると、 
  「なんだ、今度(こんど)はあっちから出てきたのか。でも、もうギラギラするのは、あきらめたみたいだな」 
   雪だるまの一人ごとを聞いていた番犬(ばんけん)は、小屋(こや)からノソノソ出てくると、ボソボソと言いました。 
  「ぬすみ聞きしていたようで、もうしわけないけどね。あんたがさっき見たのはお日さまで、今、空に浮(う)かんでいるのは、お月さまっていうのさ。お日さまは朝出て、お月さまは夜に出て来るんだよ。ついでに、もう一つ教えておくよ。もうすぐ天気が変(か)わる。なぜかって? 俺(おれ)の左足が痛(いた)むから、わかるのさ。じゃ、おやすみ」 
   イヌの言ったことは、ほんとうでした。  
   夜が深(ふか)くなるにつれて、きりがあたりをかくし、夜明けには風がふき始(はじ)めました。 
   朝日が夜のやみをすっかり、追(お)い払(はら)うと、雪だるまは、 
  「わあ!」 
  と、思わずさけびました。 
   キラキラ、キラキラ、キラキラ。  
   雪がかがやき、庭(にわ)は一面(いちめん)ダイヤモンドをしいたようです。 
   すぐそばでは、若(わか)い女の人と男の人の楽しそうな声がしました。 
  「すてきね。夏にはとても見られない、景色(けしき)よ」 
  「ああ、そうだね。それに雪だるまも、夏には会えないね」 
   二人は笑(わら)って、雪の玉をぶっけっこしながら、楽しそうに屋敷(やしき)にはいって行きました。 
  「あの人たちは、なんなの?」 
   雪だるまは、小屋(こや)から様子(ようす)を見ていたイヌにたずねました。 
  「なんなのって、大きい坊(ぼっ)ちゃんと奥(おく)さんになる人さ。大きい坊(ぼっ)ちゃんは、小イヌのころ、ストーブのある女中(じょちゅう)さんの部屋(へや)で、ぼくをかわいがってくれたんだ。ストーブってのは、寒(さむ)い日には、世界一(せかいいち)すばらしいものになるんだよ」 
  「ストーブって、きれい? ぼくににてる?」 
  「いや、正反対(せいはんたい)だね。女中さんの部屋(へや)を見てごらん」 
   雪だるまは、女中さんの部屋(へや)の赤々と燃(も)えるストーブを見たとたん、言いました。 
  「あっ。ぼくの身体(からだ)の中で、またミシミシ音がする。なんだかぼく、どうしても、ストーブのそばに行きたい」 
  「なにいってるの。あんたがストーブによりそったら、とけちまうよ」 
   イヌが言うと、雪だるまは言(い)い返(かえ)しました。 
  「とけたって、かまいません。ぼくは、ストーブのそばに行かなくてはならない気持(きも)ちなんです」 
   イヌはあきれて、  
  「そんなこと言ったって、だれがあんたを部屋(へや)に入れるもんかね」 
   そう言いながら小屋(こや)にもどって、目をとじました。 
   雪だるまは、ただもう、ジッとストーブを見つめて立っていました。  
   あたりが暗(くら)くなってくると、ストーブの火はますます赤くなって、とても美(うつく)しく見えました。 
   お日さまの光とも、お月さまの光とも違(ちが)う、おだやかで、すべてをつつんでくれそうな光でした。 
   女中さんがときどき、ストーブの口を開(あ)けてマキをくべると、炎(ほのお)がサッと飛び出(とびだ)し、外の雪だるまの顔まで赤く赤くてらします。 
  「ああ、どうしてだろう?」 
   雪だるまは、つぶやきました。  
  「ぼくは、ストーブが大好(だいす)きになったらしい。なぜだかわからないけど、そばに行きたくてたまらない」 
   その夜は、とても寒(さむ)く、女中さんの部屋(へや)のまどガラスいっぱいに、氷(こおり)の花がさきました。 
   寒(さむ)くて気持(きも)ちがいいはずなのに、雪だるまは、悲(かな)しくなりました。 
   だって、氷(こおり)の花がストーブの姿(すがた)を、見えなくしてしまったのですから。 
   朝が来ました。  
   イヌが小屋(こや)から出て、言いました。 
  「天気が変(か)わるぞ。左足がズキズキと痛(いた)むんだ」 
   たしかに、天気が変(か)わりました。 
   お日さまが、ギラギラとかがやき出したのです。  
   雪は、みるみるうちにとけ始(はじ)めました。 
   雪だるまも、だんだんとけていきました。  
   それは、雪だるまには、どうすることもできないことでした。  
   次(つぎ)の日の朝、イヌは雪だるまの立っていた所(ところ)に、ストーブの火かき棒(ぼう)がころがっているのを見つけました。 
  「そうか。雪だるまの体は、火かき棒(ぼう)がしんになっていたのか。それで、あんなにストーブのそばに行きたがっていたんだ」 
   イヌはストーブの火かき棒(ぼう)にむかって、やさしく言いました。 
  「俺(おれ)はね、あんたのことをわすれないよ」 
   そのとき、屋敷(やしき)の中から、春の歌を歌う子どもたちの明るい歌声が聞こえてきました。 
      おしまい 
        
       
         
         
        
      
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