４年生の世界昔話



イワンのバカ
トルストイの童話　→　トルストイの童話のせつめい

　むかしむかし、ある国に、お金持ちのお百姓(ひゃくしょう)がいました。
　そのお百姓(ひゃくしょう)には、軍人(ぐんじん)のセミョーン、たいこ腹(はら)のタラス、あたまのわるい、バカのイワンという三人の息子と、目と耳の不自田なマラーニャという、ひとり娘(むすめ)がおりました。
　イワンのふたりの兄は、金使いが荒(あら)く、父親のところにきては、
「財産(ざいさん)をわけろ」
と、せがみます。
　父親が、
「では、イワンに聞くがいい」
と、いいますと、イワンは、
「ふーん。じゃあ、みんな持っていけば」
　そんなわけで、イワンと父親と娘(むすめ)には、おいぼれのウマ一頭だけが残(のこ)りました。
　大悪魔(だいあくま)はこれを知ると、手下の小悪魔(こあくま)たちにいいつけました。
「あの家族をバラバラにしてやろうと思ったのに、仲(なか)よく財産(ざいさん)わけをしちまうとは、とんだ思いちがいだったわい。おまえら、やつらにとりついて、やつらをメチャクチャにしちまえ」
　二匹(２ひき)の小悪魔(こあくま)は、ふたりの兄にとりつくと、せっかく父親からもらった財産(ざいさん)を、すべて使ってしまいました。
　三匹(３びき)めの小悪魔(こあくま)は、畑仕事をしているイワンのところへやってくると、土をたがやすスキの先につかまって、さっそく仕事のじゃまをしました。
　けれどイワンはそれに気づくと、スキをふりあげて、悪魔(あくま)をたたきつぶそうとします。
「わあ、殺(ころ)さないでくれ！」
　悪魔(あくま)は、金切り声をあげました。
「なんでも、のぞみはかなえてやるから」
「ふーん。じゃ、おれは腹(はら)が痛(いた)いから、なおす薬をくれ」
　イワンがいいますと、悪魔(あくま)は地面をほって、木の根を取り出し、
「これを飲めば、どんな痛(いた)みもなくなるぜ」
「ふーん」
　イワンがためしに一切れ飲みこむと、おなかの痛(いた)みはすっかりなおってしまいました。
　そんなある日、王さまの娘(むすめ)が病気になったので、国じゅうにおふれを出しました。
「姫(ひめ)の病気をなおした者にはほうびをやる。もしそれが男で独身(どくしん)ならば、姫(ひめ)を嫁(よめ)にやってもよい」
と、いうものでした。
　イワンの親は、それを知ると、
「おまえは悪魔(あくま)からもらった根っこがあるだろう。あれを王さまに持っていったらどうだ」
と、すすめました。
「ふーん。そうだね」
　イワンは二つ返事をすると、よい身なりにととのえてもらい、家を出ました。
　ところが、家の前にまずしい女が立っていて、
「あたしは手が悪いんだ、なおしておくれよ」
と、いいますので、気のいいイワンは、
「ふーん。いいよ」
　大事な根っこを、みんなやってしまいました。
　これでは、王さまに持っていく分がありません。
　それでも、イワンは気にもせずに、おいぼれウマにまたがって城(しろ)へかけつけました。
　ところがふしぎなことに、薬のかけらも持っていないイワンが、城(しろ)の階段(かいだん)に一歩足をかけたとたん、お姫(ひめ)さまの病気がなおってしまったのです。
　喜(よろこ)んだ王さまは、お姫(ひめ)さまをイワンの嫁(よめ)にやりました。
　まもなく王さまが亡(な)くなったので、イワンが国王となりました。
　しかしイワンはすぐ、王さまの服をアサのシャツに着がえると、畑仕事をはじめました。
　妻(つま)になったお姫(ひめ)さまもイワンのまねをして、王妃(おうひ)の服を脱(ぬ)いでそまつな服に着がえると、イワンの手伝(てつだ)いをはじめましたので、あきれたりこう者は、この国からみんな出ていき、自分ではたらいてくらす、心のよい人ばかりが残(のこ)りました。
　小悪魔(こあくま)がイワンを不幸(ふこう)にするのを失敗(しっぱい)したので、大悪魔(だいあくま)はカンカンにおこり、りっぱな紳士(しんし)に化けて、イワンの国にやってきました。
　そして、高いやぐらの上にのぼり、「手を使って働(はたら)くことのおろかさ」について、毎日毎日、演説(えんぜつ)をしましたが、イワンの国の人たちにはチンプンカンプンです。
　とうとうある日、大悪魔(だいあくま)は、おなかがすいて足がすベり、やぐらのてっペんからまっさかさまに落ちて、地面の底(そこ)に消えてしまいました。
　それからイワンの国は、みんながまじめに働(はたら)いてくれたおかげで、とてもすばらしくてりっぱな、世界一の国になりました。

おしまい