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        6年生の世界昔話 
          
          
        イラスト Ellie  「インゲルの魂がカモメになって太陽に飛んでいく」 
         
パンを踏(ふ)んだ娘(むすめ) 
アンデルセン童話 → アンデルセン童話のせつめい 
      
       むかしむかし、インゲルという、まずしい家の娘(むすめ)がいました。 
   インゲルは、うわべばかり気にするような、心のまずしい娘(むすめ)です。 
   さて、インゲルは年とともに美しくなり、上品な家庭ではたらくようになりました。  
   ある日、主人がいいました。  
  「インゲルや、おまえがきてからもう一年になる。お父さんやお母さんにあいたいだろうから、いっておいで」 
   インゲルは貧乏(びんぼう)な家には帰りたくないけれど、美しくなった自分を見せびらかしたくて、出かけていきました。 
   でも、家の近くでたきぎひろいをしていたお母さんを見た時、  
  「まあ、きたならしい!」 
  と、顔をそむけました。 
   そして、とうとうインゲルは家に帰りませんでした。  
   二年めに主人は、またいいました。  
  「お父さんやお母さんにあいたいだろう。ひまをあげるから、いっておいで」 
   主人は、こんがりとやけた、大きくておいしそうなパンをおみやげにもたせました。  
   そして、新しい服と靴(くつ)も買ってくれました。 
  「まあ、すてき。わたしがどんなにきれいになったかを、見せにいきましょう」 
  と、インゲルが歩いていくと、とちゅうに沼(ぬま)がありました。 
   沼(ぬま)の水はドロドロにあふれ、道のほうまでぬらしています。 
  「これでは、せっかくの靴(くつ)がよごれてしまうわ。えいっ」 
   インゲルは、ドロ水にパンをなげました。  
   そして、靴(くつ)をよごさないように、その上に足をのせました。 
   すると、どうでしょう。  
   インゲルはパンごと、ずぶっ、ずぶっと、沼(ぬま)の中にひきこまれたのです。 
  「助けて!」 
  と、インゲルはさけぼうとしましたが、声が出てきません。 
   手も足も、こおりついたように動きません。  
   とうとうインゲルは、沼(ぬま)の底までしずんでいってしまいました。 
   ふと目をあけると、目のまえで沼女(ぬまおんな)がくさいお酒をつくっていました。 
   ちょうどそこに遊びにきていた、悪魔(あくま)のおばあさんが、インゲルを見るとニタリとわらいました。 
  「おや、なかなかいい娘(むすめ)じゃないの。もらっていこう」 
   おばあさんは、心のまずしい人間を集めているのです。  
   おばあさんの家の長い長い廊下(ろうか)には、目ばかりギョロギョロさせた、人間のおき物がずらりとならんでいました。 
   その列の中に、インゲルもならべられました。  
   インゲルの美しい服も髪(かみ)も、今はドロみれです。 
   インゲルの美しい顔の上に、気味の悪いヘビやヒキガエルが、ベッタリとくっついていました。 
   でもそんなことより、インゲルはおなかがすいてたまりません。  
  「ああ、このきたないパンでもいいから、食べたいわ」 
  と、手を足元のパンの方にのばしましたが、どうしてもとどきません。 
  「おとうさーん! おかあさーん!」 
  と、よんでも、だれにも聞こえません。 
   そのころ地上では、インゲルのうわさがひろがっていました。  
   沼(ぬま)にしずむのを、ウシ飼いが丘(おか)の上で見ていたのです。 
  「バチあたりめ、パンをふむからさ」 
  「あの娘(むすめ)は、もともとそんな娘(むすめ)だったんだよ」 
  と、だれもよいことはいいませんでした。 
   でも、その中でたったひとり、話を聞いてなき出した女の子がいました。  
  「かわいそうに。悪いことをしたら、あやまってもだめなの? その人がもし、この世にもどってきたら、わたし、お人形箱をあげるわ」 
   やがて、その女の子はおばあさんになり、神さまにめされました。  
   おばあさんは神さまのまえで、またインゲルのためになきました。  
  「わたしだって、インゲルのようなまちがいをおかしたかもしれません。どうか、インゲルを助けてあげてください」 
   そのやさしい心に、天使(てんし)のひとりがホロッと涙(なみだ)をこぼしました。 
   涙(なみだ)は沼(ぬま)におちていって、インゲルのむねに入りました。 
   やさしいおばあさんのおかげで、インゲルは地上にもどることが出来たのです。  
   でも人間ではなく、小鳥のすがたになっていました。  
   小鳥はおなかのすいた鳥たちに、パンくずをひろってはあたえ、自分は食ベませんでした。  
   そして、そのパンくずがドロ水になげたパンと同じ量になった時、小鳥はカモメになってとびたちました。  
   はるか遠い太陽にむかって。  
   それから、その鳥を見たものはいません。  
      おしまい         
         
        
       
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