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        5年生の世界昔話 
          
          
         
ふしぎなブドウ 
中国の昔話 → 中国のせつめい 
       むかしむかし、ある村に、とても心のやさしい娘(むすめ)がいました。 
   この娘(むすめ)のひとみの一つが、ブドウのようにかがやいていたので、村の人びとは娘(むすめ)のことを「ブドウ姫(ひめ)」と、よんでいました。 
   娘(むすめ)が十二才になったとき、お父さんとお母さんが病気でなくなってしまいました。 
   娘(むすめ)は、おばさんの家にひきとられることになりました。 
   このおばさんは、たいそういじわるな人で、いつも娘(むすめ)につらくあたっていましたが、ある日とうとう、娘(むすめ)を家からおいだしてしまったのです。 
   しかし、娘(むすめ)は悲しんで泣いたりはしません。 
   昼は村のガチョウのせわをし、夜は川のほとりのやなぎの木にもたれてねむりました。 
   一人ぼっちの娘(むすめ)の友だちはガチョウたちで、さびしくなると、ガチョウをだいて歌をうたいます。 
   するとガチョウたちも、娘(むすめ)の歌にあわせて「ガア、ガア」と、うたうのでした。 
   それから一年ほどたったころ、おばさんに女の赤ちゃんが生まれました。  
   この赤ちゃんは生まれつき、目が見えませんでした。  
  「ブドウ姫(ひめ)にいじわるをしたから、きっとバチがあたったんだ」 
   村人たちは、こんなわるくちをいいました。  
   おばさんは、くやしくてなりません。  
   さて、お月見の夜のこと。  
   娘(むすめ)は川岸にすわって、水にうつる月の光をボンヤリとながめていました。 
   するとそこへ、おばさんが通りかかりました。  
   町へお月見のごちそうを買いにいった、帰りなのでしょうか。  
   おいしそうなブドウがはいったカゴをかかえています。  
  「おばさん」 
  と、娘(むすめ)はいいました。 
  「わたしにそのブドウをひとふさわけてくださいな。朝からごはんをたべていないので、おなかがすいてなりません」 
   おばさんは立ちどまり、おそろしい顔で娘(むすめ)をにらみつけました。 
  「そういえば、だれかがおまえの目を、ブドウのようだとかいっていたね。どれ、見せてごらん」 
   おばさんはそういうと、いきなり砂(すな)をつかんで、娘(むすめ)の目の中にグイグイとすりこんだのです。 
  「キャーーーァ!」 
   かわいそうに娘(むすめ)は、目をつぶされて川のほとりで泣きつづけました。 
   泣きながらふと、むかしお母さんからきいた話を思いだしました。  
  「遠い山のなかに、野ブドウがなっているの。それはふしぎなブドウで、たべるとどんなに目のわるい人でもすぐになおるそうよ」 
   娘(むすめ)はそのふしぎなブドウをさがそうと、川の流れにそってあるきはじめました。 
  「ふしぎなブドウさえ見つかれば、わたしの目も、おばさんの赤ちゃんの目もなおるし、ほかの目のわるい人にもきっとよろこんでもらえるわ」 
   こうして十日もあるきつづけていると、とつぜん、クマのうなり声がしました。  
   娘(むすめ)はそばの木によじのぼって、ジッとしていました。 
   クマはグルグル木のまわりをまわっていましたが、そのうちに、むこうの谷のほうへ行ってしまいました。  
   ホッとしていると、こんどはきゅうに、木がグラグラとゆれました。  
   木の上に、一羽のタカがまいおりたのです。  
   タカのつばさは木をスッポリとおおいかくしてしまうほど大きく、ツメは鉄の針(はり)のようでした。 
   するどい刀(かたな)のようなくちばしで、木をつっつくたびに、木はガッガッと音をたててゆれます。  
   娘(むすめ)はどうなることかと、ガタガタふるえていました。 
   しかしタカは、娘(むすめ)に気づかずに、 
  「ギャオ!」 
  と、ないて、とびたっていきました。 
   でもそのとき、風がピューとふいてきて、娘(むすめ)は木の枝(えだ)からふきとばされてしまいました。 
   地面に落ちたとき、足をくじいてしまったので、娘(むすめ)は、はっていくことにしました。 
   こうして、また十日がすぎていきました。  
   娘(むすめ)の着物はボロボロにやぶれ、顔や手に血がにじんでいます。 
   ひどいつかれのために、娘(むすめ)の黒くつややかだった髪(かみ)も、いつのまにかまっ白になってしまいました。 
  「どこまで行ったら、あのふしぎなブドウが見つかるのでしょう」 
   娘(むすめ)は、なんどもあきらめて、ひき返そうとしました。 
   しかしそのたびに、勇気をふるいおこして、前へ前へと進んでいきました。  
  「いちど心にきめたことは、さいごまでやりとおさなくては」 
   そのうちに、つめたくてやわらかなものにぶつかりました。  
   それは、大きなヘビでした。  
   でも、娘(むすめ)は目が見えないので、へいきでそのヘビの背中(せなか)の上をまっすぐはっていきました。 
   そのとき、ヘビがみぶるいをしたので、娘(むすめ)はあっというまにふかい谷底へまっさかさまです。 
  「ドシーン!」 
   娘(むすめ)は谷底にたおれたまま、動くこともできません。 
  「わたし、このままここで死んでしまうのね。・・・お母さん」 
   娘(むすめ)は、まぼろしのお母さんにむかっていいました。 
   そのとき、娘(むすめ)の顔に、フワッと何かがふれました。 
   さわってみると、草のつるのようなものです。  
   そしてそのつるの先に、水の玉のようなものがぶらさがっていました。  
  (もしかしたら)  
   娘(むすめ)は水の玉をひきちぎって、そっとなめてみました。 
   すると、いままでとじていた目がパッとひらき、光がいちどにとびこんできたではありませんか。  
   水の玉だと思ったのは、さがしていたブドウだったのです。  
   見えるようになった目で、あたりを見回してみると、いちめんにブドウがしげり、キラキラと光をはじいています。  
   野の花がさき、小鳥たちが楽しそうにさえずっています。  
  「目が見えるということは、こんなにすばらしいことだったのね」 
   娘(むすめ)はブドウのつるの上にすわって、歌をうたいはじめました。 
   うたいながらブドウのつるで、カゴをひとつあみました。  
  「はやく村へかえって、目のわるい人たちに、ブドウをわけてあげましょう」 
   カゴいっぱいブドウをつみおわったとき、あたりがきゅうに、くらくかげってきました。  
  「どうしたのかしら?」 
   すると、うしろのほうから、  
  「おーい」 
  と、よぶ声がしました。 
   ふりむいてみると、大男が山をまたいでくるところです。  
   大男は肩(かた)に緑の布(ぬの)をまとい、頭に金のかんむりをかぶり、足に水晶(すいしょう)のクツをはき、手に銀のつえをもっています。 
  「娘(むすめ)よ。ここへ、なにしにきた!」 
   高い高い空の上から、大男の声がひびいてきました。  
   娘(むすめ)は、すこしもおそれずに、いいました。 
  「はい、ふしぎなブドウをさがしに」 
   大男はうなずいて、  
  「わしは、この森と草原と山の王だ。どうだ娘(むすめ)。わしといっしょに、このすばらしい国でくらさないか?」 
  と、娘(むすめ)をだきあげて、森をゆびさしました。 
   そこには、めずらしい宝石(ほうせき)が、かぞえきれないほどたくさんきらめいていました。 
  「ここにあるくだものも、宝石(ほうせき)も、みんなおれのものだ。どうだ。おれの娘(むすめ)にならないか。そうすればわしの城(しろ)にすみ、しあわせにくらすことができるのだぞ」 
  「ありがとう。でも、わたしは村へ帰らなければなりません。村に帰って、目が見えなくて悲しんでいる人びとに、ブドウをあげなければ」 
  「バカもの!」 
   大男はおこって、娘(むすめ)をふきとばしました。 
   娘(むすめ)は空高くふきあげられ、星のきらめくなかをグルグルとまわって落ちてきました。 
   大男は、娘(むすめ)をうけとめると、 
  「村へ帰っても、つらいことばかりだろう。どうだ。わしのそばでくらすか?」 
  「いいえ。わたしはどうしても、村へ帰ります」 
  「・・・そうか、わしはおまえのようなこころのやさしい、すばらしい娘(むすめ)とくらしたいと思っていた。だがあきらめよう。さあ、村へ帰るがいい」 
  と、娘(むすめ)に一本の緑の小枝(こえだ)をわたしました。 
   大男からもらった緑の小枝(こえだ)をにぎりしめると、風のように早く走ることができました。 
   娘(むすめ)はブドウのカゴをかかえて、なつかしい村へ帰っていったということです。 
      おしまい         
         
        
       
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