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11月11日の世界の昔話
  
  
  
  カンチールと巨人
  ジャータカ物語 → 詳細
 むかしむかし、カンチールというかしこくて小さなシカがいました。
 ある日、カンチールが、お友だちのイノシシ(→詳細)や、クマや、シカや、トラといっしょに、さかなをとりに、でかけました。
 みんなはさかなをたくさんとると、川べりに小屋をたてて、その中にかめをおきました。
 そしてかめの中に、とってきたさかなをしおづけにして、しまっておくことにしました。
 こうしてまいにち、さかなをとってきてはかめに入れました。
 ところがそのうちに、ふしぎなことに気がつきました。
 かめの中のさかなは、さっぱりふえません。
 それどころか、はんたいにヘっていくようです。
  「だれかこっそり、ぬすむやつがいるんだ」
  と、みんながさわぎたてました。
 そこでみんなが、さかなをとりにいっているあいだ、だれかひとりがのこって、ドロボウをつかまえることにきめました。
  「よし、ぼくがひきうけた。どんなやつがきたって、このツノでひとつきにしてやる」
  と、シカが、この役目をひきうけました。
 そこでみんなは、シカを小屋にのこして、さかなをとりにでかけました。
 シカは、ジッと、まっていました。
 やがて、足音が近づいてきました。
 そいつは、
  「だれか、いるか?」
  と、声をかけました。
  「いるとも」
 こういって、シカがでてみると、見上げるような巨人(きょじん)が立っています。
 巨人は、いいました。
  「さかなのにおいがする。それをよこせ。おれは腹がへっているんだ」
  「これはみんなのものです。あなたにあげてしまったら、しかられます」
 シカはふるえながら、ことわりました。
  「よこさないなら、おまえをくってしまうぞ!」
 巨人は、はいってきました。
 シカはビックリして、あわてて、さかなをたべさせました。
 おまけにおみやげに、なんびきも持たせてやりました。
 夕方になって、みんなが帰ってきました。
 シカは、きょうのできごとをはなしました。
 すると、イノシシが、
  「よし。あしたはおれが番をする。巨人がきたら、このキバでひとつきにしてやる」
 こうして、イノシシがのこりました。
 けれども、みんなが夕方もどってみると、やっばりシカのときとおなじように、巨人にさかなをとられていました。
  「だらしのないやつだなあ。こんどはおれさまが見はっていて、巨人がきたら、このするどいツメでかきむしってくれる」
  と、クマがいってのこりました。
  「こんにちは。だれかいるかね?」
 外で、巨人の声がしました。
  「いるとも、なんの用だ?」
  と、クマがこたえました。
  「さかながほしい。腹がへっているんだ」
  「やれないよ」
  「それじゃ、おまえをくうぜ」
 巨人が、はいってきました。
 クマはビックリして、腰をぬかしてしまいました。
 巨人はさかなをかかえて、でていってしまいました。
 そのつぎの日は、トラが、
  「ああ、見ちゃいられん。おれがかみころしてやる」
  と、いってのこりました。
 けれども、みんなが夕方もどってみると、やっぱりおなじように、さかなをとられていました。
 これを見て、小さなカンチールは、いかにもこまったようにいいました。
  「きみたちに、まかせておいたのでは、いつになってもだめだね。あしたはぼくがのころう」
 あくる日、みんながでかけてしまうと、カンチールはひたいにまっ白いぬのをまいて、ねていました。
 巨人がやってきて、声をかけました。
  「だれか、いるかね?」
 カンチールはわざと、くるしそうにハァハァいいながら、
  「ああ、いるよ。だれだか、知らないけど、いいとこへ、きてくれた。おはいりよ」
  と、いいました。
 巨人は、カンチールがねているのを見ると、たずねました。
  「どうした? ばかに、くるしそうだな」
  「そ、そうなんだ。あたまが、いたくてたまらないんだ」
  「なんで、いたいんだい?」
  「そこの、かめの中を見てごらん。そのさかなの、においのためなんだ。それをかいだもんだから、病気になったんだ」
 巨人は、かめの中をのぞきこんで、
  「うーん、なるほど、くさい」
  「ね、そうだろう。気持が、わるくないかい」
  「そういわれると、なんだかへんだ」
  「いまに、ひどい病気になるよ。そうなると、たすからないんだ」
  「おい、よせよ。なにかくすりはないのかい?」
  「くすりは、ない。だけど、ぼくみたいに、頭にきれをまいて、ジッと、横になっていれば、よくなるんだ。やってあげようか」
  「たのむ」
 巨人は、カンチールのいうとおり横になりました。
 その頭にカンチールは、グルグルとぬのをまきつけ、その先を小屋のはしらにしばりつけました。
  「どうだい、足も、すこし、いたむんじゃないかい?」
  「うん。そんな気がする」
 カンチールは、巨人の足にぬのをまきつけ、その中にじょうぶなつなを入れて、小屋のゆかにしばりつけました。
 巨人は、身うごきができなくなったので、あわてておきあがろうとしました。
 けれども、そのときは、からだがすっかり小屋にくくりつけられてしまっていたのです。
 カンチールは巨人の前にちょこんとすわって、笑っていいました。
  「あなたは、トラやクマや、力のつよいものには勝てたけれど、ぼくには負けたね」
 そこへ、みんながぞろぞろと帰ってきました。
 そして、このありさまを見て大喜びです。
 よってたかって、ポカリポカリと巨人をなぐりつけました。
 とられたさかなの数だけ、なぐりました。
 その数があまり多かったので、巨人はとうとう、目をまわしてのびてしまいました。
おしまい