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        6年生の世界昔話 
          
          
         
千色皮 
グリム童話 →グリム童話のせつめい 
       むかしむかし、あるところに、王さまがいました。 
   王さまには金色の髪の毛(かみのけ)をしたお妃(きさき)がいましたが、そのお妃(きさき)の美しいことといったら、この世にくらベものになるような女の人は、ひとりもないくらいです。 
   しかしそのお妃(きさき)は、ふとしたことから病気になってしまいました。 
   そして、まもなく死ぬような気がしたので、王さまにこういいました。  
  「わたくしがなくなったあとで、もういちど、お妃(きさき)をおむかえなさりたいならば、わたくしとおなじくらい美しく、わたくしのとおなじような金色の髪の毛(かみのけ)をもっているかたでなければいけません。このことをわたくしに、かたくお約束なさってくださいまし」 
   王さまが約束すると、お妃(きさき)は死んでしまいました。 
   王さまは長いあいだ、二度めのお妃(きさき)をむかえることなど考えもしませんでした。 
   でも、お城(しろ)には、王さまとお妃(きさき)が必要です。 
   そこで、王さまの相談役の人たちがいいました。  
  「王さまが、もういちどご結婚(けっこん)あそばして、われわれがお妃(きさき)さまをいただくことができるようにしてください」 
  「しかし、死んだお妃(きさき)との約束で、お妃(きさき)とおなじくらい美しく、金色の髪の毛(かみのけ)を持っている者でないといけないのだぞ」 
   そこで、お使いのものが四方八方ヘつかわされ、なくなったお妃(きさき)におとらぬ美しい花よめをさがすことになりました。 
   けれども、そんな人は世界じゅうさがしても見つからず、たまたま見つかったとしても、お妃(きさき)のような金色の髪の毛(かみのけ)ではありませんでした。 
   ところで、王さまにはひとりのお姫(ひめ)さまがおりましたが、その美しい顔は、なくなったおかあさまそっくりで、おまけに金色の髪の毛(かみのけ)までおそろいでした。 
   さて、あるとき王さまは、娘(むすめ)のお姫(ひめ)さまが、なくなったお妃(きさき)にそっくりなのに気がつきました。 
   そして、王さまは相談役の人たちにむかっていったのです。  
  「わしは娘(むすめ)と結婚(けっこん)する。あれはわしのなくなった妃(きさき)とそっくりだ。娘(むすめ)のほかに、なくなった妃(きさき)とおなじような花よめが見つかるとは、とても思えん」 
   相談役たちは、ビックリしていいました。  
  「父親がじぶんの娘(むすめ)と結婚(けっこん)するのは、神のきんじるところでございます。そのような罪をおこなえば、この国までがまきぞえをこうむって、ほろびることにあいなりましょう」 
   相談役もビックリしましたが、一番ビックリしたのはお姫(ひめ)さまです。 
   そこで、父親である王さまにいいました。  
  「おとうさまのおのぞみにしたがいますまえに、ぜひとも三とおりの着物をいただきとうぞんじます。ひとつはお日さまのように金色で、もうひとつはお月さまのように銀色で、のこりのひとつはお星さまのようにキラキラひかる着物がほしゅうございます。それからもうひとつ、千とおりの毛皮をあつめてぬいあわしたマン卜がほしゅうございます。それには、おとうさまの国にすんでいるけものたちから、それぞれの毛皮をすこしずつとってこなければなりません」 
   お姫(ひめ)さまは心のなかで、こんなふうに考えていたのです。 
  (そんなものをつくるなんて、とてもできることではないわ。これでおとうさまも、わるい考えをすてていただけるでしょう) 
   ところが王さまは、国じゅうでいちばんうでのよい娘(むすめ)たちに命じて、ひとつはお日さまのように金色の、ひとつはお月さまのように銀色の、もうひとつはお星さまのようにキラキラひかる三とおりの着物をおるようにいいつけたのです。 
   そしてまた、国じゅうのけものというけものをつかまえると、それをつかって千色の毛皮のマントをつくりはじめました。  
   すべてのものがすっかりできあがると、王さまはお姫(ひめ)さまにいいました。 
  「あすは、婚礼(こんれい)をしよう」 
   こまってしまったお姫(ひめ)さまは、にげだす決心をかためました。 
   そこで、みんながねむってしまった、ま夜中に、お姫(ひめ)さまは、じぶんがだいじにしているもののなかから、金の指輪と、小さな金のつむぎ車と、小さな金の糸巻(いとま)きとを手にもち、お日さまとお月さまとお星さまの三とおりの着物はクルミのからのなかヘしまって、それから、ありとあらゆる毛皮でできたマントを身にまとって、顔と両手にすすをまっ黒にぬりました。 
   こうして、お姫(ひめ)さまは、お城(しろ)をぬけだしたのです。 
   お姫(ひめ)さまは夜どおし歩きつづけて、とうとう大きな森のなかヘやってきました。 
   そして、たいそうくたびれていたので、とある一本の木のうろのなかにすわると、そのままねむりこんでしまいました。  
   朝になりましたが、お姫(ひめ)さまはまだねむっていました。 
   昼間になっても、まだねむりつづけています。  
   ところが、ちょうどこの日、この森をもっている王さまが狩(か)りにやってきました。 
   王さまの狩(か)りのイヌたちが、お姫(ひめ)さまのねむっている木のところでしきりにほえるので、王さまは狩人(かりゅうど)たちにいいました。 
  「どんなけものがあそこにかくれているか、いって見てこい」 
   狩人(かりゅうど)たちは、いいつけられたとおりいって見てきました。 
   そして、こういいました。  
  「あの木のうろのなかに、ふしぎなけものがねております。あのようなけものは、わたくしども、ついぞ見かけたことがございません。そのからだは千色の毛皮におおわれておりまして、横になってねむっているのでございます」 
  「それはおもしろい。そいつを生けどりにするんだ」 
   そこで狩人(かりゅうど)たちが、娘(むすめ)をつかまえると、娘(むすめ)はふるえながらさけびました。 
  「わたくしは、お父さんお母さんにすてられた、あわれな子どもです。どうか、ふびんと思って、いっしょにつれていってくださいまし」 
   これをきいて、狩人(かりゅうど)たちは、 
  「これ、千色皮、きたないおまえは、お台所で灰(はい)でもかきあつめるのがおにあいだ」 
   お城(しろ)につくと、狩人(かりゅうど)たちはお姫(ひめ)さまを階段(かいだん)の下の小さな物置部屋へつれていき、 
  「きたない毛皮っ子、おまえはここで、寝起(ねお)きするがいい」 
  と、いいました。 
   それから娘(むすめ)は、お台所へつれていかれて、たきぎや水をはこんだり、火をかきたてたり、鳥の毛をむしったり、野菜をよりわけたり、灰(はい)をかいたりと、下ばたらきのしごとはなんでもやらされました。 
   こんなふうに、千色皮は長いあいだ、それはそれは、みじめなくらしをしていたのです。  
   ところがあるとき、お城(しろ)で、はなやかな宴会(えんかい)がおこなわれたことがありました。 
   娘(むすめ)はお料理番に、 
  「ちょっと上ヘいって、はいけんしてきてもよろしゅうございましょうか。戸のそとに立っておりますけれど」 
  と、いいました。 
   お料理番は、  
  「ああ、いいとも、いっといで。だがね、三十分たったら灰(はい)をかきに、もどってこなければいけないよ」 
  と、いってくれました。 
   そこで娘(むすめ)は小さなランプをもって、じぶんのヘやに入ると、毛皮をぬぎすてて、顔と両手のすすをあらいおとしました。 
   すると、もとどおりに、かがやくばかりの美しさになりました。  
   それからクルミのからをあけて、お日さまのようにきらびやかな着物をとりだしました。  
   すっかりしたくがすむと、娘(むすめ)は宴会(えんかい)の場所ヘあがっていきました。 
   娘(むすめ)をみた人びとはみな、娘(むすめ)に道をゆずりました。 
   きっと、どこかの王女にちがいないと思ったのでした。  
   すると王さまがつかつかとやってきて、娘(むすめ)に手をだして握手(あくしゅ)をし、娘(むすめ)を相手におどりをはじめました。 
   王さまはおどりながら、心のなかで、  
  (こんな美しい人は、いままでいちども見たことがない) 
  と、思っていました。 
   おどりがすみますと、娘(むすめ)はおじぎをして、どこかへいってしまいました。 
   王さまは娘(むすめ)を探(さが)しましたが、どこへいったのか、だれひとり知るものはありませんでした。 
   お城(しろ)のまえに立っている番兵たちがよばれて、いろいろたずねられましたが、だれひとり、娘(むすめ)を見かけたものはありません。 
   娘(むすめ)はじぶんのヘやにかけこんで、すばやく着物をぬぎすてると、顔と両手を黒くぬり、毛皮のマントにからだをつつんで、もとの千色皮になりました。 
   それから台所ヘいってじぶんのしごとにとりかかり、灰(はい)をかきあつめようとしました。 
   すると、料理番がいいました。  
  「そいつは、あすまでほっておいていいから、王さまのスープをこしらえてくれ。おれもちょいと上へいって、のぞいてくるからな。だがな、髪の毛(かみのけ)ひとすじ、おとしちゃいけないよ。そんなことをしたら、これからさき、なんにも食ベものがいただけなくなるぞ」 
   こういうと、お料理番はでていきました。  
   千色皮は、王さまのスープをこしらえました。  
   いっしょうけんめいうでをふるって、パン入りのスープをこしらえました。  
   スープができあがりますと、じぶんのへやへ金の指輪をとりにいって、それをスープのさらのなかに入れたのです。  
   さて、おどりがおしまいになりますと、王さまはスープをめしあがりました。  
   そのスープのおいしいことといったらありません。  
   しかも、さらがからになると、金の指輪がひとつころがっているではありませんか。  
  「おや、どうしてこんなものが?」 
   王さまは、料理番にくるようにいいつけました。  
   料理番は命令をきくと、ちぢみあがりました。  
   そして、千色皮にいいました。  
  「きっと、おまえがスープのなかへ、髪の毛(かみのけ)をおとしたんだ。もしそうだったら、きさまをぶんなぐるぞ!」 
   料理番が王さまのまえへでますと、王さまは、だれがこのスープをつくったのかとたずねました。  
  「はい、わたくしが、こしらえました」 
  と、お料理番はこたえました。 
  「それはちがう。このスープはいつものより、ずっとおいしくできていたぞ」 
   王さまがこういうので、お料理番も、  
  「じつをもうしあげますと、わたくしではございません。毛皮っ子ともうすものがつくったのでございます」 
  と、いったのです。 
  「では、そのものをここヘよこしてくれ」 
   千色皮がきますと、王さまがたずねました。  
  「おまえは、だれだ?」 
  「わたくしは、父も母もないあわれな子どもでございます」 
  「なんのために、わたしの城(しろ)にいるのか?」 
  「わたくしは、なんのお役にもたちません。せいぜい、くつを頭ヘほうりつけられるくらいのものでございます」 
  「スープのなかにはいっていた指輪は、どこから手にいれたのか?」 
  「指輪なんて、わたくしはすこしもぞんじません」 
  「・・・。まあよい、ではさがれ」 
   王さまは、なにひとつききだすことができないままに、娘(むすめ)をさがらせました。 
   しばらくして、また宴会(えんかい)がもよおされました。 
   千色皮はまえとおなじように、見物にやらせてくださいと料理番にたのみました。  
  「ああ、いいとも。だがね、三十分たったらもどってきて、王さまのおすきなパン入りスープをこしらえてあげてくれ」 
  と、料理番はこたえました。 
   そこで娘(むすめ)は、じぶんのヘやにかけこんで、てばやくからだをあらって、クルミのからから、お月さまのように銀色にかがやく着物をとりだして、それを身につけました。 
   娘(むすめ)を見つけた王さまは、ふたたび娘(むすめ)にあえたことをよろこびました。 
   ちょうどそのとき、おどりがはじまったので、ふたりはいっしょにおどりました。  
   ところがおどりがおしまいになると、娘(むすめ)はまたもやすがたをけしてしまったのです。 
   王さまには、娘(むすめ)がどこへいったのか、すこしも見当がつきません。 
   娘(むすめ)はじぶんのヘやにとびこんで、また、もとの毛皮っ子になると、パン入りスープをこしらえにお台所へいきました。 
   そして料理番が上にいっているあいだに、金のつむぎ車をとりだして、それをスープのさらに入れました。  
   そのスープは、王さまのところへはこばれました。  
   王さまはスープを食ベましたが、このまえのときとおなじようにおいしかったので、料理番をよびだしました。  
   料理番は、 
  「スープをつくったのは千色皮でございます」 
  と、ほんとうのことをいわないわけにはいきませんでした。  
   千色皮は、またもや王さまのまえによびだされました。  
   けれども、娘(むすめ)は、 
  「わたくしは、このお城(しろ)にいましても、せいぜい、くつを頭へほうりつけられるくらいのものでございます。小さな金のつむぎ車のことなど、わたくしはすこしもぞんじません」 
  と、こたえました。 
   王さまが三度めに宴会(えんかい)をもよおしたときも、まえの二度とおんなじでした。 
   料理番は、娘(むすめ)にこういいました。 
  「毛皮っ子、おまえは魔法使(まほうつか)いだなあ。いつもスープのなかヘなにかいれて、そのおかげでスープがおいしくなって、わしがこしらえるやつよりも、王さまのお口にあうんだ」 
   こんども娘(むすめ)が、見物にいかせてくださいと、しきりにたのむので、料理番は時間をかぎっていくことをゆるしました。 
   娘(むすめ)はお星さまのようにかがやく着物をきると、そのまま大広間へ入っていきました。 
   王さまはこんども、この美しい娘(むすめ)といっしょにおどりましたが、王さまはおどっているさいちゅうに、気づかれないようにこっそりと、娘(むすめ)の指に金の指輪をはめました。 
   おどりがすんだとき、王さまは娘(むすめ)の両手をしっかりつかまえようとしましたが、娘(むすめ)はからだをふりほどいて、すばやく人ごみのなかヘとびこんで、王さまの目からきえてしまいました。 
   娘(むすめ)は、いちもくさんに階段(かいだん)の下のじぶんのヘやにかけこみました。 
   ところが、あまり長いこと上にいて、三十分いじょうたったものですから、美しい着物をぬぎすてるひまもなく、ただ毛皮のマントを上にはおっただけでした。  
   それに、あまりいそいでいたので、すすですっかりぬりつぶすことができず、指が一本だけ白いままになっていました。  
   千色皮は台所へかけこんで、王さまのパン入りスープをこしらえると、金の糸巻(いとま)きをスープのなかに入れました。 
   王さまは、さらの底に金の糸巻(いとま)きを見つけて、千色皮をよびだしました。 
   すると、白い指がチラリと見えました。  
   その白い指には、おどりのあいだにはめた指輪もはまっています。  
   そこで王さまは、娘(むすめ)の手をにぎって、しっかりとつかまえました。 
   娘(むすめ)がそれをふりほどいてにげようとすると、毛皮のマントがすこしはだけて、お星さまの着物がキラキラとひかって見えました。 
   王さまはマントをつかむと、ひといきにマントをはぎとりました。  
   すると、美しい金色の髪の毛(かみのけ)があらわれたのです。 
   そして、王さまがすすや灰(はい)を顔からふきとると、この世でまだだれも見たことのないくらい美しい娘(むすめ)になったのです。 
   王さまはいいました。  
  「おまえこそ、わたしの愛する花よめだ。わたしたちは、もうけっして、はなれることはないよ」 
  「はい、王さま」 
   それから結婚式(けっこんしき)があげられ、ふたりは死ぬまでなかよくくらしました。 
      おしまい         
         
        
       
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