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福娘童話集 > 絵本紙芝居(アニメかみしばい) >食わず女房
食わず女房
アニメサイズ Max 2560×1440 字幕「日本語」「英語」
イラスト 「夢宮 愛」 運営サイト 「夢見る小さな部屋」
食わず女房
群馬県の民話 → 群馬県情報
むかしむかし、あるところに、とてもけちな男が住んでいて、いつもこう言っていました。
「ああ、仕事は良くするが、ご飯んを食べない嫁さんが欲しいなあ」
そんな人がいるはずないのですが、ある時、一人の女が男の家を訪ねて来て、
「わたしはごはんを食べずに、仕事ばかりする女です。どうか、嫁にしてくださいな」
と、言うではありませんか。
それを聞いた男は大喜びで、女を嫁にしました。
男の嫁になった女は、とても良く働きます。
そしてご飯を、全く食べようとしません。
「ご飯は食べないし、良く仕事をするし、本当にいい嫁じゃ」
ところがある日、男は家の米俵(こめだわら)が少なくなっているのに気がつきました。
「おや? おかしいな。嫁は、ご飯んを食べないはずだし」
とりあえず男は、嫁に聞いてみましたが、
「いいえ。わたしは知りませんよ」
と、言うのです。
あんまり変なので、次の朝、男は仕事に行くふりをして、家の天井に隠れて見張っていました。
すると嫁は倉(くら)から米を一俵かついで来て、どこからか持って来た大きなカマで一度にご飯を炊きあげました。
そして塩を一升(いっしょう→1.8リットル)用意すると、おにぎりを次々と作って山の様に積み上げたのです。
(何じゃ? お祭りじゃあるまいし、あんなにたくさんのおにぎりを作って、どうするつもりだ?)
男が不思議そうに見ていると、嫁は頭の髪の毛をほぐし始め、頭のてっぺんの髪の毛をかきわけました。
すると頭のてっぺんがザックリと割れて、大きな口が開いたのです。
嫁はその口へ、おにぎりをポイポイポイポイと投げ込んで、米一俵分のおにぎりを全部食べてしまいました。
(あわわわわ。おらの嫁は、化物だ!)
怖くなった男はブルブルと震えましたが、嫁に気づかれない様に天井から降りると、仕事から帰った様な顔をして家の戸を叩きました。
「おい。今、帰ったぞ」
すると嫁は、急いで髪の毛をたばねて頭の口を隠すと、
「あら、おかえりなさい」
と、笑顔で男を出迎えました。
「・・・・・・」
男はしばらく無言でしたが、やがて決心して言いました。
「嫁よ。
実は今日、山に行ったら山の神さまからお告げがあってな、
『お前の嫁はええ嫁だが、家に置いておくととんでもない事になる。はやく家から追い出せ!』
と、言うんじゃ。
だからすまないけど、出て行ってくれんか?」
それを聞いた嫁は、あっさりと言いました。
「はい。
出て行けと言うのなら、出て行きます。
でもおみやげに、風呂おけとなわをもらいたいのです」
「おお、そんな物でいいのなら、すぐに用意しよう」
男が言われた物を用意すると、嫁さんが言いました。
「すみませんが、この風呂おけの底に穴が開いていないか、見てもらえませんか?」
「よしよし、見てやろう」
男が風呂おけの中に入ると、嫁は風呂おけになわをかけて男を入れたままかつぎ上げました。
ビックリした男が嫁の顔を見てみると、嫁は何と鬼婆(おにばば)に変わっていたのです。
鬼婆は男を風呂おけごとかついだまま、馬よりもはやくかけ出して山へと入って行きました。
(こ、このままじゃあ、殺される! じゃが、どうしたらいい?)
男はどうやって逃げようかと考えていると、鬼婆が木に寄りかかって一休みしたのです。
(今じゃ!)
男はその木の枝につかまって、何とか逃げ出す事が出来ました。
さて、そうとは知らない鬼婆はまたすぐにかけ出して、鬼たちが住む村へ到着しました。
そして大きな声で、仲間を集めます。
「みんな来ーい! うまそうな人間を持って来たぞー!」
仲間の鬼が大勢集まって来ましたが、風呂おけの中をのぞいて見ると中は空っぽです。
「さては、途中で逃げよったな!」
怒った鬼婆は山道を引き返し、すぐに男を見つけました。
「こら待てー!」
「いやじゃ! 助けてくれー!」
鬼婆の手が男の首にかかる寸前、男は草むらへ飛び込みました。
すると鬼婆は男の飛び込んだ草むらが怖いらしくて、草むらの中に入って来ようとはしません。
男はブルブル震えながら、一生懸命に念仏をとなえます。
「なまんだぶー、なまんだぶー」
鬼婆は草むらのまわりをウロウロしていましたが、やがてあきらめて帰って行きました。
「た、助かった。・・・しかし、何で助かったのじゃろう?」
実は男の飛び込んだ草むらには、菖蒲(しょうぶ→サトイモ科の多年生草本で、葉は剣状で80センチほど)がいっぱい生えていたのです。
鬼婆は菖蒲の葉が刀に見えて、入ってこれなかったのです。
その日がちょうど五月五日だったので、今でも五月五日の節句には魔除(まよ)けとして、屋根へ菖蒲をさすところがあるのです。
おしまい
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