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福娘童話集 > アニメかみしばい 三角と四角
三角と四角
動画制作 tsutosh
音楽 ハンター見習い 作曲 秋山裕和 朗読 笹原那太 tsutosh
原作 巌谷 小波
数学のうちに、幾何(きか)というものがある。
幾何を学ぶには、ぜひとも定木(じょうぎ)がいる。
その定木の中に、三角定木というのがある。
これはおおかた、みなさんも御存じでしょう。
ところがこの三角定木、自分の体には三方にとがった角のあるのを、たいそう自慢にいたし、
「世間に品も多いが、おれほど角のあるものはあるまい。角にかけては、おれが一番だ」
と、たった三つよりない角を、ひどく鼻にかけておりました。
するとある日、同じ机の上にあったえんぴつが来て言うには、
「三角さん、三角さん。
お前はふだんから、大層その角を自慢しているし、わしらもまたお前ほど角の多い者はないと思っていたが、この間来た、画板(がばん)を見たかい?
あれはお前より、また角が多いぜ」
と、言いますから、三角は少し不平の顔色で、
「なに? ぼくより、角の多いやつがおる?
馬鹿いいたもうな。
およそ世界は広しといえども、ぼくより余計に角を持った奴はいないはずだ」
「ところがあるから、仕方がない」
「なに? それはきみらの目が、どうかしてるのだ」
「なに? どうかしてるものか。うそだと思うなら、行ってみたまえ!」
「そんなら、行って見よう。うそだったら、承知しないよ」
「いいとも。うそなら、首でもやるわ」
と、これから連れ立って行て見ますと、なるほど画板は真っ四角で、自分よりは一角多く、しかも今まで自分をほめていた連中が、今ではみんな画板の方ばかり向いて、しきりにその角をほめている様子です。
「どうだい? うそじゃあるまい」
「なるほど。こいつは、恐れ入った」
と、さすがの三角定木も、こうなると頭をかくよりほかはありません。
大いに面目を失いましたが、しかし心のうちでは、まだ負けおしみという奴があって。
「おのれ、生意気な画板め!
余計な角を持って来やがって、よくもおれに赤恥をかかせやがったな。
どうするか、覚えていろ!」
と、はては、くやしまぎれに良くないりょうけんを起しました。
で、そのまま帰ると、すぐに近所のハサミのところへ参り、
「ハサミくん。もうしかねたが、今夜一晩、きみの体を貸してくれまいか?」
ハサミは、これを聞いて、
「なるほど。次第によっては、貸すまいものでもないが。一体、何を切るのだ?」
「ちっと、かたい物を切りたいのだが、よく切れるかい?」
「大抵の物なら切って見せるが、それでもむずかしいと思うなら、まあ、いっぺんといで行くさ」
「そうか。
そんなら、とがしてくれたまえ。
痛かろうけども、頼まれたが因果だ。
ちっとの間、しんぼう頼む」
と、これから三角定木は、くだんのハサミをば、とぎ立てまして、
「もう、これならば大丈夫」
と、その日の暮れるのを、今か今かと待ちかまえておりました。
そのうちに日も暮れて、夜もふけて、あたりも寝静まったと思う頃。
三角定木はムクムクと床を出て、例のはさみをばこわきにかかえ、さし足ぬき足で、かの画板の寝ているところへ、そっと忍んで参りました。
見ると画板は、前後も知らぬ高いびきで、さもこころもちよさそうに寝ておりますから、
「しめた!
おのれ画板め、今おれが貴様の角を残らず取り払ってやるからには、もう明日からは角なしだ。
いくらいばっても、追いつかんぞ」
と、腹の中でさんざん悪たいをつきながら、突然チョキリ!
一角切って落しましたが、まだ気が付かない様子ですから、また一角をチョキリ!
それでも、目がさめないから、
「こりゃ、よくよく寝坊だわい」
と、言いながら、チョキリ! チョキリ!
とうとう四角とも切り落し、まずこれで溜飲(りゅういん)が下がった。
「どりゃ、帰って寝よう。ハサミさん、おおきに御苦労だった」
と、急いでわが家へ帰って、そのまま寝てしまいました。
さてその翌朝、何くわぬ顔で床を出て見ますと、世間では大評判で、会う者ごとに、
「画板は、えらいえらい」
と、しきりに画板をほめ立てますから、どうした事かと行って見ますと、こわいかに。
昨日まで四角であった画板は、今朝は八角になって、意気揚々とあるいております。
四角の角々を切り落せば角の数が倍になって、八角になるのはあたりまえ。
しかもそれは自分のしわざであるのに、そうとは心つかぬ三角定木。
驚いたの、驚かないの。
「ヒャー! こりゃ、どうじゃ?!
あの四角奴め、一夜のうちに八角になりよった。
この分では、また明日は、十角や二十角にもなるだろう。
こりゃ、しょせんかなわぬわい」
と、とうとうかぶとを脱いで降参しましたとは、身のほど知らぬ大白痴(おおたわけ)。
おしまい
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