福娘童話集 > 若者に恋をした魔女 むかしむかし、ある深い森の中に、とても年を取った魔女がいました。 あまりにも年を取りすぎて、五百才なのか千才なのか、自分でもわかりません。 「まあ、なんて素敵な人でしょう」 ・・・でも、わたしはしわくちゃのおばあちゃん。
『ヘビのぬけがら』『オオカミのおしっこ』『マンモスの牙』『コオロギの羽』と、不気味な物をどんどん集めて、 それを鍋でぐつぐつと煮込みました。 そして夜が明ける頃に、 大鍋いっぱいの「若返り薬」が出来上が ったのです。 魔女はそれを小さなビンに小分けにすると、 さっそく若返り薬を飲んでみました。 「ううっ、何て味なの!?」 そこで彼女は大好きなチョコレートを山のように用意すると、薬を一さじ飲んではチョコレートをかじり、また薬を一さじ飲んではチョコレートをかじりと、何時間も何時間もかけて、ようやく小さな小瓶の薬を飲み干しました。 そして最後の一滴を飲んだ瞬間、 魔女は肌からしわが取れ、 曲がった背中はピンの伸び、真っ白だった髪の毛は金髪にと、とても若くて可愛らしい姿になったのです。 「まあ、成功だわ」 若返った自分に満足した魔女は、黒くて古臭い魔女のドレスから、花飾りの付い た流行りのきれいなドレスに着替えました。 これでもう、どこから見ても魅力的な少女にしか見えません。 魔女はさっそく青年に会うために、町へ出かけて行きました。 魔女がベンチに座っていると、向こうからあの青年がやって来ます。 若返った魔女が青年に微笑むと、青年も若返った魔女に一目惚れして、魔女に声をかけてくれました。 楽しくおしゃべりをする、魔女と青年。 (恋をするって、何て素敵なのかしら) 魔女は青年とのおしゃべりを途中で切り上げると、青年に急いで別れを言い ました。 「わたし、もう家に帰らないと行けないの。また明日ね」
そして青年と別れた魔女が自分の家に入ったとたん、若返り薬の効き目が切れてしまいました。 すると美しかった少女は、再び元のおばあさんに戻ってしまいました。 なぜなら、魔女の体が若返りの薬になれてしまい、少しずつ効き目が弱くなっていったのです。 「わたしは、あなたの事が好きです。たとえあなたがどんな姿であっても、わたしの気持ちは変わりませんよ」 (あの人は、わたしの本当の姿を知っても、わたしの事を愛してくれるのかしら。 「わたしも、あなたの事が好きなの。 「人には誰でも、人に言えない秘密があるものです。 あなたがどんな秘密を持っていても、あなたへの愛は決して変わりませんよ」 結婚式の朝、魔女は若返りの薬を、まと めて三本飲むことにしました。 「わたしは、あなたをずっと愛する事を誓います。 魔女はうれし涙を流しながら、青年と誓いのキスをしました。 魔女はしわくちゃのおばあさんの姿になってしまったのです。 「ごめんなさい! 青年は魔女に気づかれないように小瓶に入った薬を取り出すと、 それを飲み込んで魔女に言いました。 そう言われて魔女が顔を上げると、 青年の美しい顔にどんどんしわが出来て、自分と変わらないほどのおじいさんになったのです。 「これが、わたしの本当の姿です。 「ええ、よろこんで」 こうして魔女のおばあさんとおじいさんになった青年は結婚をして、いつまでも幸せに暮らしました。 おしまい ※ 本当の恋に、年の差は関係ありません。 |