福娘童話集 > 若者に恋をした魔女 
         
      若者に恋をした魔女 
         
          
イラスト 和穗かなた  運営サイト ここあ  
 
若者に恋をした魔女 
福娘オリジナル童話 
 
アニメサイズ
        Max 2880×2160  
        
         
         
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        Max 2880×2160  
        
         
         
        ※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先 
        
         
        投稿者 「ぐっすり眠れる優しいおやすみ朗読」 
      
        
       むかしむかし、ある深い森の中に、とても年を取った魔女がいました。 
        
       あまりにも年を取りすぎて、五百才なのか千才なのか、自分でもわかりません。 
         この魔女は大きな木をくり抜い て作った、木の家に住んでいます。 
   
         ある日の事、魔女の木の家のそばを、これまで見た事がないほど美しくてさわやかな青年が通りました。 
        
       「まあ、なんて素敵な人でしょう」 
         魔女はその青年を見たとたん、恋に落ちてしまいました。 
        「長い間生きてきたけど、こんな気持ちは初めてだわ。 
        
        ・・・でも、わたしはしわくちゃのおばあちゃん。 
         こんなわたしが好きだと言っても、あの人は迷惑するわね」 
   
         そこで魔女は古い本や巻物を調べて、 
        
           
            
        『ヘビのぬけがら』『オオカミのおしっこ』『マンモスの牙』『コオロギの羽』と、不気味な物をどんどん集めて、 
        
       それを鍋でぐつぐつと煮込みました。 
        
        そして夜が明ける頃に、 
        
       大鍋いっぱいの「若返り薬」が出来上が ったのです。 
        
        魔女はそれを小さなビンに小分けにすると、 
        
       さっそく若返り薬を飲んでみました。 
        
       「ううっ、何て味なの!?」 
         若返り薬はとても苦くて、そのままではどうしても飲めません。 
        
        そこで彼女は大好きなチョコレートを山のように用意すると、薬を一さじ飲んではチョコレートをかじり、また薬を一さじ飲んではチョコレートをかじりと、何時間も何時間もかけて、ようやく小さな小瓶の薬を飲み干しました。 
        
        そして最後の一滴を飲んだ瞬間、 
        
       魔女は肌からしわが取れ、 
        
       曲がった背中はピンの伸び、真っ白だった髪の毛は金髪にと、とても若くて可愛らしい姿になったのです。 
        
       「まあ、成功だわ」 
        
        若返った自分に満足した魔女は、黒くて古臭い魔女のドレスから、花飾りの付い た流行りのきれいなドレスに着替えました。 
        
        これでもう、どこから見ても魅力的な少女にしか見えません。 
        
        魔女はさっそく青年に会うために、町へ出かけて行きました。 
        
        魔女がベンチに座っていると、向こうからあの青年がやって来ます。 
        
        若返った魔女が青年に微笑むと、青年も若返った魔女に一目惚れして、魔女に声をかけてくれました。 
        
        楽しくおしゃべりをする、魔女と青年。 
         魔女にとって、それは生まれて初めての素晴らしい経験でした。 
        
       (恋をするって、何て素敵なのかしら) 
         魔女と青年は楽しいおしゃべりを続けましたが、でも、魔女にはあまり時間が残されていません。 
        
        魔女は青年とのおしゃべりを途中で切り上げると、青年に急いで別れを言い ました。 
        
       「わたし、もう家に帰らないと行けないの。また明日ね」 
        
           
            
        そして青年と別れた魔女が自分の家に入ったとたん、若返り薬の効き目が切れてしまいました。 
        
        すると美しかった少女は、再び元のおばあさんに戻ってしまいました。 
        「何とか間に合ったわ。こんな姿を見られたら、あの人に嫌われてしまうものね」 
   
         こうして魔女は毎日苦い若返り薬を飲むと急いで青年に会いに行き、青年との楽しい時間を過ごしました。 
         でも、魔女と青年が一緒に過ごす時間は、毎日少しずつ少なくなっていきます。 
        
        なぜなら、魔女の体が若返りの薬になれてしまい、少しずつ効き目が弱くなっていったのです。 
         でも若返りの薬はとても強い薬なので、一度にたくさん飲むと体に良くありません。 
        「年寄りになる薬なら、効果はいつまでも続くのに。・・・わたしが若い姿であの人と会えるのも、あと何回かしら?」 
   
         そんなある日、青年は魔女との別れ際に、ほほ笑みながらこう言うのです。 
        
       「わたしは、あなたの事が好きです。たとえあなたがどんな姿であっても、わたしの気持ちは変わりませんよ」 
         それを聞いた魔女は、こんな事を思いました。 
        
       (あの人は、わたしの本当の姿を知っても、わたしの事を愛してくれるのかしら。 
         ・・・こんな、おばあちゃんのわたしでも) 
   
         次の日、魔女はついに決心をして、愛する青年に言ってみました。 
        
       「わたしも、あなたの事が好きなの。 
         でも、わたしにはあなたに言えない秘密があります。 
         こんなわたしでも、あなたは結婚してくれますか?」 
         すると青年は、にっこり微笑んで言いました。 
        
       「人には誰でも、人に言えない秘密があるものです。 
        
        あなたがどんな秘密を持っていても、あなたへの愛は決して変わりませんよ」 
         
       こうして二人は、次の日に二人だけの結婚式をする事にしたのです。 
        
        結婚式の朝、魔女は若返りの薬を、まと めて三本飲むことにしました。 
         強い薬なので、こんなに飲むのは体に良くありませんが、これだけ飲めば今日一日は若いままでいられるでしょう。 
         青年は魔女の家にやって来ると、魔女に誓いの言葉を言いました。 
        
       「わたしは、あなたをずっと愛する事を誓います。 
         たとえあなたに、どんな秘密があろうとも。 
         わたしのあなたへの気持ちは、永遠に変わりません」 
        「うれしい」 
        
        魔女はうれし涙を流しながら、青年と誓いのキスをしました。 
           
         しかしこの時、さっき飲んだばかりの三本の若返り薬の効果が切れて、 
        
       魔女はしわくちゃのおばあさんの姿になってしまったのです。 
         
       魔女はその場にしゃがみ込むと、顔を手で覆って青年に謝りました。 
        
       「ごめんなさい! 
         これがわたしの、本当の姿なの。 
         あなたに嫌われないようにと、あなたに会う時はずっと若返り薬を飲んでいたの」 
         魔女の告白に、青年はにっこりと微笑みました。 
         実はこの青年、娘と毎日会っているうちに、娘の本当の姿に気づいていたのです。 
         しかし青年はそれを知っていながら、魔女との結婚を決めたのでした。 
        
        青年は魔女に気づかれないように小瓶に入った薬を取り出すと、 
        
       それを飲み込んで魔女に言いました。 
        「言ったでしょう。 
         あなたへの気持ちは、永遠に変わらないと。 
         それに秘密があるのは、あなただけではありません。 
         このわたしにも、秘密があります。 
         さあ、ごらんなさい。 
         このわたしの顔を」 
        
        そう言われて魔女が顔を上げると、 
        
       青年の美しい顔にどんどんしわが出来て、自分と変わらないほどのおじいさんになったのです。 
         
         さっき青年が飲み込んだ薬は、若者をおじいさんに変えてしまう薬でした。 
       でもその事は言わずに、おじいさんになった青年はにっこり微笑むと、魔女にこう言いました。 
        
       「これが、わたしの本当の姿です。 
         わたしもあなたに気に入られようと、あなたに会う時は若返りの薬を飲んでいました。 
         あらためて、あなたにお聞きします。 
         こんなわたしでも、結婚していただけますか?」 
        
       「ええ、よろこんで」 
        
        こうして魔女のおばあさんとおじいさんになった青年は結婚をして、いつまでも幸せに暮らしました。 
      おしまい 
      ※ 本当の恋に、年の差は関係ありません。 
      ※ 2人の愛が真実であれば、2人は必ず幸せになれます。 
         
         
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