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若返るのをあきらめたお母さん


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アメリカの昔話 → アメリカのせつめい

 ハワイの言い伝えでは、人間は年を取るとヘビやトカゲの様にすっぽりと古い皮を脱いで、若返る事が出来たそうです。

 ある日の事、一人のお母さんが、自分の顔を鏡で見てがっかりしました。
「まあ、わたしったらいつの間にか、すっかりしわだらけだわ。前に若返ったのはずいぶんと前だから、もうそろそろ古い皮を脱いで若返らないと」
 お母さんは子どもたちが寝ているすきに、そっと川へ出かけました。
 そしてきれいな川に入って、服を脱ぐように全身の皮をすっぽりと脱ぎすてたのです。
 こうしてお母さんは、すっかり若返ってきれいな女の人になりました。
 お母さんの脱ぎ捨てた古い皮は川のくいに引っかかって、ゆらゆらと水に浮いています。
「ああ、さっぱりした。お肌もつるつる! 若返るって、本当に素晴らしい事だわ」
 きれいになったお母さんは、歌を口ずさみながら子どもたちのいる家へ帰りました。

「ただいま。ほらお母さん、とてもきれいになったでしょう」
 ところが子どもたちは、若返ったお母さんを見てびっくりです。
「あれ? 知らない人が来たよ」
「どこのお姉ちゃんだろう?」
 それを聞いたお母さんは、あわてて言いました。
「何を言っているの? 若返ったけど、お前たちのお母さんだよ」
 けれど子どもたちは、首をふってさけびました。
「ちがうよ! お母さんはもっと年を取っていて、しわがいっぱいあるんだ」
「そうだよ。そんなにつるつるの肌のお姉ちゃんじゃない!」
 それを聞いていた末っ子が、泣き出しました。
「うぇぇ〜ん、うぇぇ〜ん。お母さんが、お母さんがいないよう。お母さんがぼくたちをすてて、どこかへ行っちゃったよ」
「だから、わたしがお母さんだよ。お前たちを産んでからは始めてだけど、お母さんは古い皮を脱いで若返ってきたんだってば」
 でも子どもたちは、信じようとはしません。
 すっかり困ってしまったお母さんは、家を飛び出すとさっきの川へ引き返しました。

「ええーと、わたしの古い皮、古い皮はどこだろう?」
 探してみると、古い皮はまだくいに引っかかったままでした。
「あったわ。一度脱いだ皮を再び着ると、もう二度と皮を脱ぐ事は出来ない。・・・でも、あの子たちに嫌われるよりましだわ」
 お母さんは川の中に入ると、古い皮をひろってすっぽりと着込みました。
「さあ、これで子どもたちも、安心するでしょう」

 元の姿に戻ったお母さんが家に帰ると、子どもたちがうれしそうにかけ寄って来ました。
「お帰りなさい、お母さん」
「お母さん、今までどこへ行っていたの?」
「そうだよ。さっき変なお姉ちゃんがやって来て、自分の事をお母さんだなんて言うんだよ」
「そうなの。でも、安心しておくれ。お母さんは二度とどこへも行かないし、そのお姉ちゃんも二度と来ないからね」

 この時から人間は、皮を脱いで若返る事をやめたそうです。

おしまい

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