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        百物語 第三話 
          
          
         
かべの中から 
      
       むかしむかし、あるところに、仲の良いおじいさんとおばあさんがいました。 
 二人は、ある晩、 
「なあ、ばあさんや。どちらかが先に死んだら、お墓には入れないで家の壁に塗り込めよう。そうすれば、いつまでも一緒にいられる」 
「そうですね。そして死んだ者が、壁の中から呼んだら、必ず返事をする事にしましょう」 
と、約束しました。 
 ところが間もなく、おばあさんがポックリあの世へ行ってしまったので、おじいさんは約束通り、おばあさんの亡きがらを壁に塗り込めたのです。 
 すると、その日から毎日、 
「おじいさん、いるかい?」 
 壁の中のおばあさんが聞いてきます。 
「ああ、ここにいるよ」 
「何をしているんだい?」 
「わら仕事だよ」 
 
 またしばらくすると、おばあさんが聞きます。 
「おじいさん、いるかい? 何をしているんだい?」 
 一日に何度も聞かれるので、おじいさんはだんだん面倒くさくなってきました。 
「誰か、わしに代わって返事をしてくれる者はおらんかなあ?」 
 おじいさんがため息をついていると、うまいぐあいに旅の男がやってきました。 
「すみません。旅の者です。よければ一晩、泊めていただけませんか?」 
 それを聞いたおじいさんは、大喜びで言いました。 
「どうぞどうぞ。遠慮なく泊まっていってくれ。その代わり壁の中から、『おじいさん、いるかい?』と、声がしたら、『ああ、ここにいるよ』と、答えてくれんか。『何をしているんだい?』と、聞かれたら、適当に答えてくれりゃあいい」 
「はい。そんな事なら、おやすいご用ですよ」 
 旅の男が引き受けてくれたので、おじいさんはやれやれと、お酒を飲みに出かけました。 
 
 留守を頼まれた男は、壁の中のおばあさんの声に、いちいち答えていましたが、何度となく聞かれるので、やがて面倒になってつい、 
「うるせえなあ。おじいさんは酒を飲みに出かけたよ」 
と、本当の事を言ってしまったのです。 
 すると突然、ガバッ!  と、壁が破れて、半分がガイコツの、ものすごい顔のおばあさんの幽霊が飛び出してきました。 
「おじいさんは、どこだーー! お前は誰だーー!」 
「うひゃあー! でっ、出たーー!」 
 男は驚いたのなんの、命からがら逃げていきました。 
      おしまい 
         
         
        
       
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