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        百物語 第六十四話 
          
          
         
うたよみゆうれい 
       むかしむかし、あるところに、あきやがありました。 
  「あきやのままでは、もったいない」 
   大家さんが、「貸し家(かしや)」のふだをはると、すぐにかりる人がみつかりました。 
   ところが二、三日すると、大家さんにあいさつもなく、かりた人がでていってしまいました。 
   また、あきやです。 
   大家さんがあらためて、「貸し家」のふだをはると、こんどもすぐに、かりる人がみつかりました。 
   ところがまた、二、三日もすると、かりた人が、だまってでていってしまいました。 
   こうしたことが、なんどもくりかえされるので、 
  「いったい、どうしたわけだろう?」 
   大家さんがくびをひねっていると、 
  「なんだ。大家さんのくせに、しらないのかい。まいばん、ゆうれいがでるってうわさだよ」 
   とおりがかりの人が、おしえてくれました。 
   うわさは、町じゅうにひろがりました。 
   こうなると、かりる人もいません。 
   大家さんがこまっていると、町でいちばんどきょうのいい男がやってきて、 
  「おれが、ゆうれいをみとどけてやろう」 
   あきやにとまることにしました。 
   男がざしきのものかげにかくれて、ゆうれいがあらわれるのをまっていると、家のおくのほうからミシッ、ミシッ。 
   あやしげなもの音がしたかとおもうと、ながいかみをおどろにみだした女のゆうれいがあらわれて、いろりのふちにすわりました。 
   ゆうれいは、いろりの灰をかきまぜながら、 
  「かきまぜる灰は、はまべのいろににて」といって、なきだしました。 
   それを、なんどもくりかえすので、ものかげの男は、 
  (これはきっと、うたのうしろはんぶんができないために、まいばん、でてくるのだろう) 
  と、かんがえました。 
   そこで、ゆうれいがまた、「かきまぜる灰は、はまべのいろににて」といったときに、すかさず、 
  「※ゆるりが海か、おきのみゆるに」 
   うたのうしろはんぶんを、いってやりました。 
   すると、ゆうれいは、あんしんしたらしく、 
  「いいうたができて、これでもう、心のこりはありません。どうもありがとうございました」 
   おれいをいってきえ、二どとあらわれなかったそうです。 
  ※ゆるりは、いろりの事。おきは、海のおきと、いろりのおき火をひっかけたことば。 
      おしまい 
         
         
        
       
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