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        百物語 第七話 
          
           
         
        雪女 
         
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       むかしむかしの、寒い寒い北国でのお話です。 
   あるところに、茂作(しげさく)とおの吉という、きこりの親子がすんでいました。 
   この親子、山がすっぽり雪につつまれるころになると、鉄砲を持って猟に出かけていくのです。 
   ある日の事、親子はいつものように雪山へ入っていきましたが、いつのまにか、空は黒雲におおわれ、冬山は人をよせつけぬかのように、あばれはじめました。 
   ふきすさぶ吹雪(ふぶき)は、のぼってきた足あとをかき消してしまいます。 
   二人はやっと、きこり小屋を見つけました。 
  「今夜はここでとまるより、しかたあるめえ」 
  「うんだなあ」 
   チロチロと燃えるいろりの火にあたりながら、二人は昼間の疲れからか、いつのまにかねむりこんでしまったのです。 
   風の勢いで、戸がガタンと開き、雪がまいこんできました。 
   そして、いろりの火が、フッと消えました。 
  「う〜、寒い」 
   あまりの寒さに目をさましたおの吉は、そのとき、人影を見たのです。 
  「だれじゃ、そこにおるのは?」 
   そこに姿をあらわしたのは、若く美しい女の人でした。 
  「雪女!」 
   雪女は、ねむっている茂作のそばに立つと、口から白い息をはきました。 
   茂作の顔に白い息がかかると、茂作の体はだんだんと白くかわっていきます。 
   そしてねむったまま、しずかに息をひきとってしまいました。 
   雪女は、今度はおの吉の方へ近づいてきます。 
  「たっ、助けてくれー!」 
   必死で逃げようとするおの吉に、なぜか雪女はやさしくいいました。 
  「そなたはまだ若々しく、命がかがやいています。望み通り、助けてあげましょう。でも、今夜のことを、もしもだれかに話したら、そのときは、そなたの美しい命はおわってしまいましょう」 
   そういうと雪女は、ふりしきる雪の中にすいこまれるように、消えてしまいました。 
   おの吉は、そのまま気を失ってしまいました。 
   やがて朝になり、目がさめたおの吉は、父の茂作がこごえ死んでいるのを見つけたのです。 
   それから、一年がたちました。 
   ある大雨の日、おの吉の家の前に、一人の女の人が立っていました。 
  「雨で、困っておいでじゃろう」 
   気だてのいいおの吉は、女の人を家に入れてやりました。 
   女の人は、お雪という名でした。 
   おの吉とお雪は夫婦になり、かわいい子どもにもめぐまれて、それはそれは幸せでした。 
   けれど、ちょっと心配なのは、暑い日ざしをうけると、お雪はフラフラと倒れてしまうのです。 
   でも、やさしいおの吉は、そんなお雪をしっかり助けて、なかよくくらしていました。 
   そんなある日、はり仕事をしているお雪の横顔を見て、おの吉は、ふっと遠い日のことを思い出したのです。 
  「のう、お雪。わしは以前に、お前のように美しいおなごを見たことがある。お前とそっくりじゃった。山でふぶきにあっての。そのときじゃ、あれは、たしか雪女」 
   すると突然、お雪が悲しそうにいいました。 
  「あなた、とうとう話してしまったのね。あれほど約束したのに」 
  「どうしたんだ、お雪!」 
   お雪の着物は、いつのまにか白くかわっています。 
   雪女であるお雪は、あの夜の事を話されてしまったので、もう人間でいる事が出来ないのです。 
  「あなたの事は、いつまでも忘れません。とても幸せでした。子どもを、お願いしますよ。では、さようなら」 
   そのとき、戸がバタンと開いて、つめたい風がふきこんできました。 
   そして、お雪の姿は消えたのです。 
      おしまい 
         
         
        
       
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