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日本のとんち話 第31話
カニのすもう
天下人となった秀吉(ひでよし)は、大阪城(おおさかじょう)と言う、大きなお城に住んでいました。
大阪城にはきれいな池があって、そこには金で作ったカニが置いてありました。
それも、一匹や二匹ではありません。
大きいのやら小さいのやら、何百匹ものカニがキラキラと光り輝いていました。
ところが秀吉は、今度京都に新しい城を作ったので、そちらに引っ越す事にしたのです。
そこで秀吉は、この池の金のカニを家来たちに分けてやる事にしました。
「お前たちに金のカニを分けてやるが、誰にでもやるのではない。
何故、カニが欲しいのか。
カニを、どう言う事に使うのか。
その訳を言うがよい。
『それなら、カニをやってもよい』
と、思う様な訳を言った者にだけ、分けてやる事にしよう」
家来たちはみんなは首をひねって、何と言えば、あのカニをもらえるだろうかと考えました。
そのうち、一人が進み出て言いました。
「殿さま。わたくしは、床の間の飾り物にしたいと思います。ぜひ、一匹下さいませ」
「おお、床の間の飾りか。それなら良かろう。お前には大きいのを一匹つかわそう」
「はい。ありがとうございます」
その家来は大きいカニを一匹もらって、得意そうな顔をしました。
すると、もう一人の家来が言いました。
「わたくしは、書が趣味です。ですから紙を押さえる文鎮(ぶんちん→紙が動かない様にする重り)にしたいと思います」
「そうかそうか。文鎮なら良かろう。ただ、文鎮では大きすぎては邪魔だから、小さいのを一匹つかわそう」
「はい。ありがとうございます」
その家来は小さいカニを一匹もらって、少し残念そうな顔をしました。
それからみんなは、次々と色々な事を言ってカニをもらいました。
「わたくしは、子どもや孫の代まで、いいえ、もっと先まで伝えて、家の守り神にしたいと存じます」
「わたくしは、・・・」
「わたくしは、・・・」
ところが家来の一人の曽呂利(そろり)さんだけは、みんなの様子を黙って見ているだけで、何も言いません。
「これ、曽呂利。お前はさっきから何も言わないが、カニが欲しくないのか?」
秀吉が尋ねると、曽呂利はつるりと顔をなでて、
「いえいえ、もちろん、わたくしも頂きとうございます。しかし」
「しかし、どうした?」
「わたくしの使い方は、一匹では足りませんので」
「何?一匹では足りぬと。ふむ、一体何に使うのじゃ?」
「はい。わたくしは勇ましい事が大好きでございますので、あのカニに相撲を取らせてみたいのでございます」
「ほう、相撲か。なるほど考えたな。よし、では二匹をつかわそう」
「いえいえ、相撲はやはり東と西に分けて、横綱(よこづな)、大関(おおぜき)、小結(こむすび)、幕下(まくした)と、それぞれいなければ面白くありません」
「おおっ、確かにそれもそうじゃ。それでは曽呂利よ、残りのカニは、みんなそちにやろう。持っていけ」
「はっ、ありがとうございます」
曽呂利さんはニコニコ顔で、残りのカニを全部持って行ってしまいました。
その為に、カニをもらいそこなった家来たちは、
「曽呂利め、相撲とは考えたな。それならわしは、武者合戦(むしゃがっせん)とでも言えば良かったわ」
と、悔しがったそうです。
おしまい
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