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日本の恋物語 第3話
娘の婿選び
むかし、ある長者に年頃の一人娘がいました。
娘は家の用事で川のそばを歩いていましたが、このところの長雨つづきで川は大水です。
「まあこわい。気をつけて歩かないと。・・・あっ!」
運悪く娘は足をすべらせてしまい、そのまま川に落ちてしまいました。
さあ、たいへんです。
見ていた人が川にかけよりましたが、娘はどこへながされたのか、どこをさがしても見つかりません。
それを聞いた長者はうろたえ、通りかかった易者(えきしゃ)に娘の居場所を占わせると、
「板ぎれにつかまって、少しむこうのふかみ(→ふかいところ)にういておる」
と、教えてくれました。
おかげで娘は見つかりましたが、川はたいへんな大水なので、とびこんでいって助ける事ができません。
そこへ、目の見えない男がやってきて、
「わたくしがお助けしましょう。なわを用意してくだされ」
と、自分の体になわをつけて川に飛び込むと、なんとかむすめを引きあげてくれました。
でも、娘はひどく弱っていて、今にも死んでしまいそうです
と、こんどはそこに医者がかけつけ、ありったけの手あてをしてくれたので、娘はなんとか命をとりとめることができました。
助けてくれた三人に感謝した長者は、お礼に娘を嫁にやることにしましたが、娘は一人なのに、助けてくれたのは三人です。
易者と目のみえない男と医者の、だれに娘をやるかまよいました。
三人とも命の恩人ですし、三人とも娘を嫁にほしいといいます。
「はて、どうしたものかのう」
こまった長者は、名裁きで有名な大岡越前守(おおおかえちぜんのかみ→詳細)に頼むことにしました。
「どうか、大岡さまに娘の婿を選んでいただきたい。三人のうち、誰が娘を一番しあわせに出来るか、大岡さまの名裁きをお願いいたします」
「・・・うむむ」
数々の難問(なんもん)を解決してきた越前守(えちぜんのかみ)ですが、このときばかりはさすがに困ってしまいました。
「まあ、三日まってくれ」
とりあえず、その日は長者を帰らせて、それから三日間、夜も寝ないで考えましたが、よい知恵がうかびません。
三日たって、再び長者がやってきましたが、
「あと、二日まて」
と、日をのばしてもらいました。
そして、とある滝の近くへ気ばらしにでかけることにしたのです。
「ふう、こまったこまった。やっかいなことを引き受けてしまった」
岩にこしをおろして、ボンヤリと滝をながめていると、ふと、話し声が聞こえてきます。
じつは岩の下にほらあながあって、そこを山賊(さんぞく)が隠れ家にしているのでした。
耳をすませてみると、なんと、今回のさばきについて話をしているではありませんか。
「大岡さまでも、あのさばきはつけられんとは、気の毒な事じゃ」
「おい、きさまなら、どうする?」
「きまっておる。わしなら、長者の娘婿(むすめむこ)には、易者や医者ではなしに、目の見えん男じゃ」
「ほほう。どうして、そうきめられるのだ?」
「わからんのか? 昔から、『たとえ火の中、水の中』ちゅう言葉があるじゃろうが。易者が占いをするのは当たり前。医者が人を助けるのは当たり前。それにくらべて目の見えん男は、本当に水の中をくぐって娘を助けたんじゃ。目の見えん男が娘を一番しあわせにするきまっておる」
越前守は山賊の言葉になるほどと感心して、目の見えない男を長者の娘婿に決めたということです。
「うむ、これにて、一件落着!」
おしまい
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