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日本の恋物語 第6話
なぞなぞ絵てがみ
むかしむかし、ある町の店に、村から嫁いできたお嫁さんがいました。
お嫁さんはよく働き、気だてもよくて、申し分ないのですが、あいにく文字の読み書きが出来ません。
ある日の事、このお嫁さんが、久しぶりに村のお母さんの所へ里帰りする事になりました。
お嫁さんに、お土産を持たせた夫は、
「おっかさんに、この手紙を持って行きなさい」
と、筆と紙を取りました。
「あの、うちのおっかさんも、読み書きが出来ません。すみませんが、字の手紙でなく、絵手紙にしてください」
「わかった。じゃあ、絵手紙にしよう」
夫は紙に、『一升ます』と、『草かりがま』と、『女の人の着物に噛みつきそうなイヌ』を、サラサラッと絵にして、お嫁さんに渡しました。
さて、それから数日後。
「おっかさん、ただいま」
「まあまあ、よく帰って来てくれたね。さあ、ゆっくりしていっておくれ。で、どうだい? 町での暮らしは」
「はい。夫はやさしくしてくれるし、お店は繁盛しているし、毎日がとても楽しくてね。それでつい、帰るのが遅くなって・・・」
お嫁さんは、つもる話をしてから、
「あっ、そうそう。夫から、絵手紙を預かってきましたよ」
と、お母さんに、絵手紙を差し出しました。
それを受け取ったお母さんは、絵手紙を見て首を傾げます。
「はて、『一升ます』と、『草かりがま』と、『女の人の着物に噛みつきそうなイヌ』。何の事やら、読み取れませんよ」
そこで、お母さんとお嫁さんは、隣に住む物知りのおじいさんに、この絵手紙を読み解いて欲しいと頼みました。
すると、
「ふむ、ふむふむ。気の毒じゃが、これは、離縁(りえん)状じゃよ」
と、言うのです。
「まさか、そんな事は・・・。でも・・・、そんなあ・・・」
お嫁さんは悲しくなり、シクシクと泣き出しました。
「何かの間違いです。ちゃんと、読み解いて下さい」
お母さんが言うと、おじいさんは絵手紙をお母さんに見せて言いました。
「いいかい。『一升ます』は、一生の事。『草かりがま』と『イヌ』で、かまワン、となる。つまりだ、『おまえの事は、一生構わんから、帰ってこなくていい』と、言う事じゃ。ほんに、気の毒になあ」
「うわーん!」
お嫁さんは、あまりの事に泣き崩れてしまい、それから毎日泣き暮らしていました。
そんなある日の事、夫が町から尋ねてきました。
「いつまでも、帰ってこないから、病気にでもなったのかと、心配でやって来た。一体、何を泣いているのだ?」
「だっ、だって、絵手紙で『一生かまわん』と、あたしを離縁したではありませんか」
「ああ? 何を言うのだ! イヌの絵を、よく見たのか? イヌが、女の着物のすそを噛もうとしておったろうが。これはつまり、『お前の事は、一生かまう(大事にする)』との意味で、決して離縁状などではない」
これを聞いて、お嫁さんは、
「まあ、うれしい!」
と、夫に抱きつくと、仲良く手に手をとって、町へ戻って行きました。
お幸せに。
おしまい
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