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日本の感動話 第18話
おスマばあさん
むかしむかし、ある山おくの村に、おスマさんという、ばあさんがおりました。
はやくに死んだじいさんのお墓をたてようと、二十年間、ほしい物もガマンして、やっとためたお金を、旅の男にだまされて、きれいに持っていかれてしまいました。
それ以来、村の者はおスマばあさんのことをバカにしていました。
ある日のこと。
おスマばあさんのところヘ、役人がふたりづれでやってきました。
「この村では、酒をつくっておるじゃろう」
「どこの家とどこの家じゃ。ばあさん、知らんかね」
と、聞いてきました。
この村は貧乏なので、税金の高いお酒を買うことができず、役人にはないしょで、自分たちでどぶろく(にごり酒)をつくっていました。
役人に聞かれたばあさんは、ゆっくり腰をのばして、
「へえ、旦那(だんな)。ささでこぜえますかい?」
役人たちは、うなずきました。
酒のことは、「さけ」の「さ」を重ねた言葉の「ささ」ともいいます。
「それでしたら、この村じゃあ、山の炭焼小屋で、どっさり、つくっておりますだ」
それを聞いた役人たちは、
(ウッヒヒヒ。きょうは、たっぷり飲めるわい。ろうやに放り込むとおどかせば、金も手に入る。・・・これだから、役人はやめられん)
と、顔を見あわせて、ニヤリとわらいました。
「わるいが、ばあさん」
「そこヘ、案内してくれんか」
「ちょっと待ってくだっせ。むすこがもどってくるまでに、おらあ、飯をたいといてやらにゃならんで、ちょっくらとなりまでいって、米かりてくるでな」
出かけていったばあさんは、帰ってくると、
「さあ、案内しますで」
おスマばあさんは役人をつれて、山道をスタコラサッサとのぼっていきました。
ばあさんのあとから、役人たちはフウフウいいながらついてきます。
「このばばあ、年はとっても」
「ばかに足は早いわい」
と、ブツブツいいながらも、いっしょうけんめいついてきます。
やっとのことで、山おくの、ふるい炭焼小屋が見えてきました。
ばあさんは、小屋のほうを指さして、
「旦那。ささは、あそこでつくっておりますだ」
いわれると、役人たちはかけだしました。
小屋の戸をあけると、まるで、ころがるように中ヘとびこみます。
ところが、そこはクモの巣だらけで、どこをさがしても、酒のさの字もありません。
役人たちは、腹たてて、
「ばば、ばばあ!」
「酒は、どこだっ!」
すると外から、おスマばあさんが手まねきして、
「ヘえ、こっちでさあ。旦那、はようきてくだせえ。すぐそこにささは、どっさりございますよ」
役人たちが小屋を出て見ると、おスマばあさんが、でっかい笹(ささ)やぶをゆびさして、
「いい笹じゃろ」
と、いいました。
そのころ村では、おマスばあさんの知らせを聞いた村人が、どぶろくの入った酒つぼをかくしたあとでした。
このことがあってから、村の者はだれも、おスマばあさんをバカにしなくなったということです。
おしまい
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