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3月16日の小話

つけばな
   鼻をなおすことでは、名医といわれたお方が、江戸の赤坂(あかさか)におりました。
   この鼻医者のところヘ、鼻のかけた男がきて、鼻をつけてもらいました。
  「いかがでございますな」
   医者のさし出したカガミをのぞいて、男は、
  「うむ。これならけっこう」
  と、すっかりうれしくなって、友だちのところヘ、いそいそと、やってまいりました。
  「どうだい。おれの鼻を見てくれ」
  「ほほう。これは、りっぱなものだ。いい男になったなあ。どこで、やってもらった」
  「赤坂の鼻先生のところさ」
  「うむ。さすがにうまい。つぎ目が、ちっともわからん。うまいものだ」
  と、ほめちぎりました。
   ほめられると、鼻かけ男は、いっそう、うれしくなって、たもとから紙に包んだものを取り出して、
  「これも、見てくれ」
   あけてみますと、赤い鼻が入っています。
  「はて、これも鼻のようだが」
「そうよ。ちりょうのおまけにもらったものだ。そいつは、酒によったときにつける鼻さ」
おしまい