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日本のふしぎ話 第19話
金色のトビ
宮崎県の民話
むかしむかし、日向の国(ひゅうがのくに→宮崎県)に、伊波礼毘古命(いわれびこのみこと)という人がいました。
伊波礼毘古命は、高千穂(たかちほ)というところで国をおさめていましたが、そこはあまりにもはしっこの国だったので、もっと東の方へ移ろうと思い、軍隊をひきいてそこを出発しました。
そして海を渡ったり、陸を進んだり、長い月日をあちらこちらと歩きまわりました。
ある年の夏、伊波礼毘古命の軍隊が、今の大阪湾から陸へあがろうとしたときのことです。
大和の国(やまとのくに→奈良県)の、いなかのほうにいた長髄彦(ながすれひこ)という人が、
「伊波礼毘古命の軍隊がここへ来たのは、きっと、わたしたちの国をうばい取るつもりなのだろう」
と、思い、たくさんの兵隊を集めて、待ちかまえていました。
それで伊波礼毘古命の軍隊が乗った船が浜辺につくなり、さかんに矢をいてきました。
伊波礼毘古命の軍隊はたてを手に持ち、ビュー、ビューと飛んでくる矢を防ぎながら、陸にあがって戦いました。
この戦いで、伊波礼毘古命の兄さんが、長髄彦の矢に当たって深いきずを受けました。
兄さんは、そのきずをおさえながら言いました。
「わたしたちは太陽の子でいながら、太陽のほうに向かって戦ったのがまちがいだった。これから遠まわりをして、太陽を後ろにして戦おう」
そこで伊波礼毘古命の軍隊は、もう一度船に乗って南の方へまわることにしました。
その途中、兄さんは矢のきずがもとで、なくなってしまいました。
「ようし、兄さんのかたきは、きっと取ってみせるぞ」
伊波礼毘古命はそう決心をし、長髄彦をにくみました。
伊波礼毘古命の軍隊が陸にあがると、べつの新しい敵がいました。
この敵をうつために、けわしい山道を道案内をしてくれたのは、『八咫(やた)ガラス』という、カラスでした。
こうして伊波礼毘古命の軍隊は、ようやく長髄彦のいるあたりへ来ました。
長髄彦も、伊波礼毘古命の軍隊が攻めよせてくることを早くから知っていたのでしょう。
敵ながら、力いっぱい戦いました。
そのうちに、長髄彦のほうの兵隊の勢いが強くなり、伊波礼毘古命の軍隊は負けそうになってきました。
「あぶない、味方がやられる!』
伊波礼毘古命がそう思ったとき、にわかに空が暗くなって、大雨が降ってきました。
そして大雨の中を、どこからか金色のトビが飛んできて、軍隊を指揮している伊波礼毘古命が持った弓のてっぺんにとまったのです。
「うわっ、まぶしい!」
長髄彦の兵隊は、うろたえてさけびました。
その金色のトビの光りかがやくようすが、まるでいなびかりのように見えたのです。
「これは、たまらん!」
敵のだれもがまぶしさに目がくらんでしまい、もう戦うどころではありません。
おかげで味方の軍隊は勢いをもりかえし、伊波礼毘古命は長髄彦をうちほろぼすことができました。
この伊波礼毘古命という人が、神武天皇(じんむてんのう)なのです。
おしまい
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